151:うらみの滝 2/3(お題:滝の水) ◆d9gN98TTJY[sage]
2013/07/27(土) 12:01:18.27 ID:uAA1OfnI0
そういうことなのだろう。
喪ってやっと向けられていた思いに気付けた、俺の不甲斐なさよ。
そういう気持ちで詠むならば、恋しくばで始まる上の句は誰に向けられたものだったのか、深く考えずとも分かることだ。
もう生きていないというのは斬新な発想だと今の知識では思えるが、もう死んだ(信太)のならば、そこに来て貰えるだけで恋しさの証拠になるのだろうと、そう解説していた彼女の気持ちがやっと分かるようになった。
隠り世の存在だからこそ、物語で語られるその宝物は命を左右すると。けれど隠り世の存在だからこそ、そのままでは生者である保名には逢えない。だから裏を見てくれと。
白い側の保名に逢うには白い面をみせなくてはいけない。生者は生者の側に。
探るまでもなく葛の葉の正体を見破った清明などにではなく、ただ保名に。
そして恨みも羨みも、己と保名との間を引き裂いた清明に。
だが、保名は息子たる清明を伴って、清明は父たる保名を伴って、信太の森にやってきた。
奇しくも詩に詠んだ通りに、二つの思いが綯い交ぜになっていたことだろう。
そして葛の葉は保名が望んだとおりに妻として、息子の将来を案じて、消えていく。
保名に向けるべき慈愛を清明に、そして……。
――清明に抱いていたうらみは保名に。
男は死んで添い遂げることを選ばず、生きて離別を選んだ。
聞いたときには当然のことだよなあと考えていた。
何を馬鹿なことを。
だったらどうして、俺は今あの滝に向かっているというんだ。
表で生きる者に裏を見よと。
そう願った彼女の心は未だ果たされていない。
保名はいずれ死んだのだろう。
けれど彼女の下に赴いた時を終わりの時にしたわけでもない。
物語によっては、彼女の宝によって再び生を得る描写すらある。
生きると言う決断が彼女との離別だったのだろう。
だからおそらく、彼女は今も待っている。
裏見の滝はもうすぐだ。
動くのが苦手だった彼女が、少しずつしっかりした足取りで歩けるようになっていく中で、特に好んでいたのがこの滝だった。
滝の裏から森が透けて見えるのだ。
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