22:1/2 お題:>>20 後段
2013/07/15(月) 15:54:33.18 ID:KpORzsSjo
「何でも出来そうな気がしてきた」
少女の気持ちを言葉にするとそうなった。少しでも優秀な子供というのは、何でも自分で出来てし
まうように思っている物だが、彼女はその素質にもかかわらず、そんな万能感に浸ったことはなかっ
た。彼女は、まるで講談の軍師や英傑のように活躍できるほどの才能があったが、足が悪く、天涯孤
独で後ろ盾にも恵まれているとはいえなかった。
いい気持ちのまま、彼女の従者が持ってきたジュースにもう一度手を伸ばした。今日は、彼女の無
聊が少しでも癒えるようにと、少し変わったジュースを何本か持ってきてくれたのだった。1本目
は、キウイ味かと思って飲んでみればキュウリ味だったので、後回しにした。2本目に手を出した、
桃の味がする苦甘いジュースは大当たりだった。
万能感に包まれながら、再びジュースを彼女は「ぐびり」とやった。実は、一口目飲んで、おいし
い一方でこれまで味わったことのない味がしたので、、二口目は躊躇していたのだった。しばらく、
迷っていたのだったが、考えている間に、だんだんと、そう万能感が彼女の中を満たしていった。
心臓の鼓動が何となく早くなったような心持ちがした。ほんの少しだけ苦い後味が残ったので、そ
れを消すために、もう一度「ぐびり」といった。今度は後味が残らないように唾液で口の中を洗って
飲み下した。そうすると、吐息の温度が上がる心持ちがしてきた。彼女は娯楽が欲しくなってきた。
そのとき、ぬいぐるみが一つぴょんとはねて飛んで彼女の寝るベッドの前でうやうやしくお辞儀を
した。彼女は拍手と声を立てた笑いで答える。そうすると、他のぬいぐるみもそれに応えて、彼女の
御前にまかり出て挨拶をした。
さらに、ミュージックコンポからは陽気な音楽が流れ始め、ぬいぐるみ達は一斉に踊り始めた。四
本足の者は後ろ足で立ち上がり、足がたくさんある者、足のない者は宙に浮いて、音楽に合わせて舞
を舞う。彼女は、激しく手を叩き、黄色い声を上げて笑い、その踊りを讃えた。この世の悲惨を集め
たような境遇であり、笑っていても必ずその顔に憂いを秘めている、普段の彼女を知る人はこの時の
彼女を見たとしたら、ある者は、安心し、ある者は呆れたろう。幸いに、いや、あるいは不幸にも、
彼女の従者達は皆、所用のために出払っており、家の中には彼女の他は誰もいなかった。
やがて、踊りに加えて、部屋の隅に置かれていたCDラジカセからは歌が聞こえ始める。音楽に合わ
せた性質で、彼女の好む歌、希望を讃える歌が流れる。本棚からは絵本から、やや難しい専門書、そ
して辞書までが鳥が羽ばたくように飛び回りだした。あたかも国家元首の前で曲技(アクロバット)
を繰り広げる戦闘機のように。背面飛行に、急降下、八の字飛行も何でもあり。機体起こしを繰り返
すコブラを完全にやって見せた西遊記の絵本を指さして彼女は賞賛を惜しまなかった。さらには、彼
女の大好きな洋服達もクローゼットから出てきて、天女のごとく舞を始める。
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