297:真っ白と黒と無色の天使(お題:色鉛筆) 5/9 ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/08/11(日) 02:45:20.69 ID:VMBVgmEm0
雪原さんは、高校に入学すると共に絵画教室に通わなくなった。僕は自分の恋心を彼女に告白することはしなかったし、
そもそも彼女のメールアドレスすら知らなかった。彼女とは絵画教室で話すだけで、僕らは友達以上の関係に至れなかった。
それ以来、彼女と会う機会はなくなった。彼女の家の場所は知っていたが、そこに向かう勇気もなかった。会わなくなって、
彼女への思いがどんどん強くなるのを感じていた。思いが強くなりすぎて、僕の中で雪原さんは、どんどん神格化していく
ような感覚があった。
雪原さんがいない生活を送るようになっても、相変わらず僕の世界に色などは存在しなかった。高校に行っても友達は出
来なかった。美術科がある高校で好きな事を学んでいたが、僕は他人とコミュニケーションを取ろうとはしなかった。友達
なんていらなかった。クラスの女はみんな雪原さん以下のクズとブスだけだったし、男は頭の悪い猿だらけだった。一人だ
け杉内と言う男がいて、そいつとだけはたまに話をすることがあった。音楽科に通う、エレクトロニカやポストロック、ア
ンビエントミュージックなどに詳しい奴だった。学校の中で、一番まともな奴だった。
「僕は死んだ人の音楽しか聞かないんだ。天才ってさ、本当に短い期間の中でその生命力、エネルギーの全部を費やして、
すごい作品を作るんだ。だから早く死ぬのなんて当たり前なんだよ。だってさ、馬鹿みたいに無益な事をやり続ける凡人の
暮らしを何十年も続けるのならさ、すごい作品を作って早死にする方が良いよな。だから早死にした天才たちは、僕にとっ
てあこがれなんだよ。僕も早く死にたい。出来れば二十五歳くらいで。遅くとも三十歳位で。まあスパークルホースのマー
ク・リンカスみたいに、若いころずっとくすぶっててあるときすごい作品を出して、結局自殺って言うのもいいけど。でも
僕は一生分のエネルギーを使って、何か音楽を作りたいんだ。それだけでいい。それが出来なきゃ。僕は死ぬよ。結局生き
たって死んでるのと同じなんだから」
杉内は良くそのような話をした。彼には才能があったが、とても繊細で感受性の強い男だった。そしてそれは、僕の性格
とよく似ていた。だから僕ら二人は、お互い少しなりとも分かり合えたのかもしれない。もちろんだからこそ、僕らは親しい
友達にならなかったわけだが。
1002Res/567.52 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。