過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
1- 20
298:真っ白と黒と無色の天使(お題:色鉛筆) 6/9  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/08/11(日) 02:46:30.29 ID:VMBVgmEm0

 僕の絵は、世間から評価されるようになった。高校に入ったばかりの頃までは、僕の絵は評価されなかった。例えば賞な
どに応募してみても、選考を通過することさえなかった。僕はそれでいいと思っていた。他人から評価される必要などない
と思っていた。僕はただ、自分の感情や思考を、筆を通じて吐き出しているだけだった。それは自分にとって必要だからや
っていただけだ。もちろん世間から評価されたらどうなるのだろうと言う、虚栄心を含んだ思いがあったからこそコンクー
ルなどにも参加したわけだが、選考の当落は本質的にはどうでもいいことだった。だが、高校三年の夏、僕の絵はとあるコ
ンクールで審査員賞を貰う事となった。それはフランスで開かれている業界内ではわりと有名なコンクールだった。今まで
は日本のコンクールにきり応募していなかったが、高校三年になって、絵画教室の先生が僕にこう言ったのだ。もしや君の
感性は、海外での方が受け入れられるかもしれん。そうして先生は業界関係者に当たって、僕の絵をコンクールに出品して
くれた。その業界関係者は、僕が持つ不思議な色遣いを高く評価してくれた。出品にかかる費用は、彼が全て負担してくれ
た。
 僕が描いた絵は、鉛筆による抽象画だった。たくさんの魚が、目から星を零れ落としながら、空に向かって逆さまに泳い
でいる。それを雪原さんが食べている。洪水に飲まれた町の巨大なビルに腰掛けて、緑色のワンピースに日傘を差して。上
手に箸を使いながら。雪原さんは目の見えない魚を食べている。そんな雪原さんの目にはたくさんの魚が写っていて、それ
は夜空に浮かぶ星雲みたいに渦巻いてキラキラと輝いている。ビルの中では男たちが殺し合いをしている。男たちから流れ
出る血は水色で、まるで涙を流すみたいに、全身から血が溢れ出している。そしてたくさんの女がその血を舐めながら、男た
ちの洋服に自らが付けた数字を書き込んでいく。空にはたくさんの藍色の向日葵が咲いていて、空を町中にばら撒かれている。
雪原さんの足は溶けかけていて、街に打ち寄せる津波と混ざり合っている。
 審査員を務める業界の変わり者の男が、僕の絵をこう評した。
「技術は拙く、構図もごちゃごちゃしていて、気持ち悪い。だが彼には気持ち悪いモナリザを描く才能はある。心に訴える気
持ち悪さは、技術を磨き過ぎた僕らには出来ない」
 僕は受賞を知ったその日に、雪原さんの家に向かった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/567.52 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice