過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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43:最後の廃墟(お題:フルフェイスヘルメット好きの女の子) 4/5  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/07/16(火) 00:49:58.73 ID:n6DekYwS0

 高校が夏休みに入り、僕らはまたぽつぽつと、二人でまた戦争跡地に向かうようになっていた。それはなんだか久しぶり
の事だった。高校に入ってから僕らは、二人で遊ぶことも少なくなっていたし(お互いの友達もいたし、思春期の男女が二
人で仲良くするって言うのは、やはりそう言う目で見られるから)、僕の方もちょっぴり絵梨奈を避けている節があったの
かもしれない。彼女が何を考えているか分からなくて、密かに恐れを抱いてしまうような時があるのだ。そんな自分に憤る
こともあるけれど、フルフェイスヘルメットをかぶって、無機質な視線でじっとこちらを眺める絵梨奈は、時に変な冷たさ
を僕に意識させることが多かった。
「なんだか久しぶりだね」
 僕らは八月に入ったばかりの月曜日の午後八時。
 満天に輝く星空の元、廃墟の中に並んで座っていた。
「そうだな」
 なんだか付き合いたてのカップルが夜のデートに来ているみたいで、僕は変に緊張してしまい、思わず素っ気ない返事を
してしまった。
 そんな僕の返事を気にする風でもなく、彼女は手慰みに土をいじりながら質問をしてきた。
「最近、私の事を避けてない?」
 いきなり僕の抱える問題の核心を突いた、的確な質問をされて思わず動揺をしてしまう。そんな僕を見て、彼女は少しだ
け寂しそうな声音でふふふっと笑った。彼女の声は、相変わらずくぐもって聞こえたが、なんだかその微笑みは柔らかくて
優しげだった。表情は見えなかったが、その仮面の下も笑っているような気がした。
「ちょっと……絵梨奈がどんな表情をしてるのか分からなくなる時があって、すこしだけ怖くって、自分勝手に怯えてたん
だ。ごめん」
 僕は率直な彼女の質問に、こちらも真正面から正直に話してみた。別に取り繕う事でもないし、嘘を言う必要だってない。
「怯えてた?」
 僕の言葉がとても意外だったような、そんな驚いた様子の声で彼女は反応した。
「なんか不思議だね」
 彼女はそう言って、昔みたいに甘えるような声で笑った。
「怯えているのは私の方なのに」
 僕はその言葉に内心で驚いて、彼女の方に視線を向けた。彼女もこちらを向いて小首をかしげて見せた。 
「一体……何に怯えてたんだよ。あっ、まさか俺に……?」
 僕は不安に駆られて自分の声が震えているのが分かり、恥ずかしさのあまり顔が赤くなっていくのを感じた
「えーっ、違うよ。どこに佑介に怯える要素があるのよ」
 そう言われてしまえばそうなのだが、じゃあいったい彼女は何に怯えていたんだろうか。
「あのね、昔もよくこの場所に来てたよね。私はいろんなものを拾うのが好きで、こういう場所にはきっと素敵なものがた
くさん落ちているだろうなって、そんな軽い気持ちでこの場所に来てたの。佑介が連れて来てくれたときはすごく浮き浮き
してたの。でもね……」
 一つため息を吐いてから、絵梨奈は空を向いて続きを話し始めた。
「ここにはちゃんと戦争の痕があって、実際に戦った人の痕がちゃんとあって、死んだ人の痕があって……血が付いていた
り、爆発の焼け跡が残っていたり、たくさんの物が壊れて、町が破壊されているのを見た時、私は今まで感じる事の出来な
かった戦争っていうものが、実は身近で起こっていて、こんな近くでたくさんの人が戦って死んでいるだってことを感じて
しまったの」
 僕は何も言うことが出来ずに、黙って彼女の話を聞いていた。だって、僕には何も言うことが出来なかった。彼女がそう
思っていることも、怯えていることも、何も知らなかったのだ。
「なんだか死がどんどん近づいているように感じて、急に物凄く怖くなっちゃったの。だってこんなに近くで戦いが起こっ
ていて、人が呆気なく死んでるんだよ。それなのに戦争に無関心で、のほほんと暮らしている自分自身にも怖くなっちゃっ
て。もしかしたら戦争が拡大して、私たちにも戦火が及んだかもしれないのに。そんなことさえ知らないで、いつも通り暮
らしている自分にも、こうやって戦争で死んでいる人の痕を見てしまったことも、私にとってはすごく怖かったの。いきな
り真実を晒されたみたいで、すごく怖くなっちゃったの。だから、私はフルフェイスヘルメットを見た時に、安心したの。
何だかそれが自分を守ってくれる存在なような気がして。私の怯えた表情を隠してくれるような気がして。だから私は夢中
でそれを集め始めた。集めたってどうなるわけでもないのに、とにかく戦争の事を忘れたくって、生々しい傷跡を忘れたく
て、私はこれを夢中で集めた。それである時ヘルメットをかぶって見たら、とても、とっても安心することが出来たの。自分
は社会の様々な物から隔たれていて、守られている。そう感じたの。だからさ、」
 こちらを向いて、彼女はヘルメットのシールド部分を上にずらして、久々に僕の前に目を晒していた。
「怯えているのは私の方なんだよ。こんな近くでたくさんの人が死んでしまうのも、それを何も感じずにいた私も。全部が怖
かったんだよ」





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