503:No.3 結婚前夜 8/10 ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/09/01(日) 15:03:08.59 ID:ho2+SDFr0
朝食を食べ終えて、諸々の準備をする。まあ、彼女の方は式場で着飾ったりするから、家でするのは簡単なメイクくらい
だと思うのだけれど、しかし男の俺にはよく分からない。もしかしたら女性は色々な準備があるのかもしれない。何年経っ
ても、女は男にとって不思議な生き物なのだ。彼女が何を思って、一人で何をしているのか。永遠に分からないのかもしれない。
部屋に篭って何をしていたのか、長い時間をかけて準備を整えた彼女が、バッグを持って玄関へと出てくる。
扉の前で佇んでいる俺に声をかけずに、彼女は横を通り過ぎていく。
俺はその背中をじっと眺めながら、先に会場に向かう美加を黙って見送る。
事前に呼んであったタクシーが道に停まっていた。車の扉が開かれ、彼女はゆったりとした足取りで、そこへ向かう。
「美加」
俺は少しだけ逡巡してから、その背中に向かって呼びかける。
今日と言う日を、お互い上手に飛び立つためにも。
俺はこの言葉をかけなければいけない。
「幸せになれよ」
美加が、俯くようにして立ち止った。
それからゆっくりと顔を手で覆って、微かに肩を震わせ始めた。
「それから敦人にも礼を言っといてくれ。結婚前夜を、俺たち兄妹二人が過す、最後の時間にしてくれたことに」
美加は肩を震わせ、ぼろぼろと涙を零しながら、こちらを向いた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃぁぁん……」
何度もしゃっくりあげながら涙声で言うので、もうそれは言葉になっていなかった。昔からそうなのだ。こいつは泣き虫で、
世話が焼ける奴だった。でも、その世話も今日で報われると言うか、美加が立派に未来へ歩みを進めていくのは、兄としては誇らしい気分なんだ。
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