過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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504:No.3 結婚前夜 9/10  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/09/01(日) 15:04:29.19 ID:ho2+SDFr0

 俺が十九歳、美加が十四歳の時に両親が死んで以来、三年間は親戚の家で面倒を見てもらったものの、俺は入っていた大
学を辞めて色々と高級が貰えるアルバイトをしながら、二人で暮らす生計を立ててきた。今から四年前にようやく生協の工
場の正社員になってからも、休みのない忙しい日々が続いていた。妹を養うために。彼女を幸せにしてやるために。俺は無
我夢中で働いてきた。笑顔も忘れてしまうほどに、工場で働きまくった。
そして彼女の結婚前夜。俺は一ヶ月ぶりに休みを取って、妹と過ごすことが出来た。本来は婚約者と過ごすであろう、恋人
同士で過ごすであろう最後の日々を、その婚約者から譲って貰って、俺は掛け替えのない妹と最後の日を過ごしたのだ。
 美加の婚約者である敦人は、昔から超が付くほど良い奴だった。俺の幼馴染であり、親友である彼と美加が付き合い始め
たのは、今から五年ほど前だった。当時の俺にとって、妹と親友が付き合っているだなんて言うのは、まさにとんでもない
ことだった。その告白を聞いた当初は、必死に働く俺に内緒で二人だけで楽しみやがって、俺だけに働かせて二人だけで幸
せな人生を歩みやがって、俺の見てないところでイチャイチャしやがってと、結構な妬みや憤りを感じていた。自分だけが
不幸なままで、奴らだけがのうのうと幸せになりやがってと、そんな僻みも感じていた。だが時間が経って落ち着いてみれ
ば、美加が付き合うのにこんなに相応しい人物は彼以外にいないことも、俺は十分に分かっていたのだ。俺が最も信頼出来
て、美加を支えてやれる人物は敦人以外にはいない。昔からの幼馴染で、美加の相談にも乗ってやって、俺たちが家族二人
で暮らすためにと色々とサポートとしてくれて。だから、昨年末、美加と敦人が揃って家へやって来て、結婚をしたいのだ
という相談を受けて、俺はその最後の一押しをしたのだ。お前らが結婚したいのなら、すればいい。ずっと昔から知り合い
だった敦人と美加が結ばれるなら、俺が祝福しなくてどうするんだ。二人で勝手に幸せになれ、お前らの結婚を、俺は認め
るよ、と。なんだか素直じゃない父親みたいな感じで、俺はそう言ったんだ。
 今回も、小学校の頃から一緒に遊び続けて、ウチの家族の事情を知り尽くしている敦人だからこそ、俺と妹の事を慮って
くれ、こうやって最後のプレゼントをくれたんだ。本当は結婚前夜を美加と過ごしたかっただろう。でも、敦人はそんな自
分の想いを捨てて、美加との時間を俺に過ごさせてくれた。何気ない、けど掛け替えのない妹との最後の一日を。そんな親
友兼、妹の夫となる敦人に、俺は感謝してもしきれない。
「もう泣くな。豚っ鼻になるぞ」
「お兄ちゃん……」
 妹は必死に泣き止もうとして、ごしごし目を擦りながら、くしゃくしゃになった顔で俺を見た。
「今まで、育ててくれてありがとうございました」
 美加は丁寧に頭を下げた。
 その言葉に対して、俺は戸惑うこともなく微笑んでいた。 
 なぜか視界は歪んでいるけれど、とても晴れやかであったかい気持ちだった。
「お前ら絶対幸せになれよ。お前の選択は正しいよ。アイツ以外にお前を幸せに出来る奴なんていない。それにさ、優柔不
断なお前が、散々悩んで、でも自分でちゃんと決断したんだ。敦人と結婚することを。だから、大丈夫だ。お前が選ぶ未来
はいつだって正しい」
 美加は俯きながら、首を振った。
「わたし……お兄ちゃんにばっか負担かけて……本当に――――」
「それはもういいんだ。俺もさ、そろそろ工場を辞めてさ、公務員を目指すよ。しっかりと自分のペースで働けるところに
いって、そんで彼女見つけて幸せになってやるよ。だからお前は何も心配せずに、堂々と前へと歩んでいけ。明るい未来が
お前を待っている。今日がその始まりなんだ!」
 美加は何度もうなずいて、それから泣きじゃくってメイクがボロボロになった顔で、
「翔ちゃんが公務員になるまでは、私がお金出すから、絶対に幸せなりなさい! 私はもう大丈夫だから、今日、その事を
見せつけてやるから、だから翔ちゃんも、明るい未来を歩き出すの! これは二人の約束だから! や、敦人との三人の約
束」
 涙を流しながら、胸を張ってピースマークを送る妹の姿がそこにあった。
「生意気になったもんだよ……俺を養うだなんて」
 何故だか、妹の姿がぼやけて、上手く声が出せなくて、目からは滝のように涙が溢れて止まらなかった。お互いに馬鹿み
たいに泣いて、俺らは玄関前で向かい合っていた。
でも、このまま泣いているわけにもいかない。今日は俺が主役じゃないんだ。泣いている場合じゃない。俺は目の前の美加の
背中を押して、前へ歩き出すように促した。お兄ちゃん、ありがとう、本当にありがとう、と呟き続ける彼女を、タクシーま
で連れて行った。
「運転手さん、こいつ、今日これから結婚式なんです。明るい未来へ、送り届けてやってください」
 俺がそう言うと、運転手はにかっと笑って、
「そりゃあ、めでてぇな! 任せとけよ。絶対安全に届けてやるよ。それにしても……お前ら涙拭けって、今から泣いてどう
すんだよ、顔ボロボロじゃねえか」
 笑いながらそう言う運転手さんにつられて、俺たちも顔を見合わせて、心からの笑顔で笑った。




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