過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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707:ゆっくりと空っぽになる(お題:さよなら)  1/10 ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/10/08(火) 02:29:26.68 ID:j/UhbHsu0

 星を散りばめられた群青色の空は相変わらずひどく澄んでいて、僕はそれを心から美しいと思った。この物寂しい田舎町
も、空の美しさだけは他の町に誇っていいと思う。ダイオキシンや排気ガスやらの空気汚染が少なくて、とても綺麗な空が
映し出されるこの街。だけれどそんな穏やかなで綺麗なこの街の人口は、ここ数年で着実に減り続けてしまっている。その
理由は専門家を持ってしても分かっていないが、七年前を境に、唐突に(まるで最初からそこに存在しなかったみたいに)
人々の魂が消えてしまうという謎に満ちた原因不明の現象が相次いでいた。市の出した統計では、三年ほど前から、その現
象が起こる割合が加速度的に増えているのだと言う。このペースだと二十年後には、この街自体が消え去ってしまうのでは
と予測されているとも聞いた。
 そもそもお年寄りばかりが暮らしているような町だから、自らがこの世から消えてしまうことを覚悟している人と言うの
は結構多いのではないかとも思う。もちろんそれは僕の勝手な想像にすぎないのだけれど。しかしつい先日にあった出来事
を思い返してみれば、やはりこの世に未練を持たずに消えていく人と言うのも、しっかりといるんだなと実感することが出
来た。これは四日ほど前に起こった出来事なのだけれど、僕の隣の隣の部屋に住んでいたお婆ちゃんが、例の原因不明の現
象によってこの町から消え去ったのだ。いつも犬を連れて散歩をしているお婆ちゃんで、会えば気さくに話しかけてくれる
気のいい人だった。深い皺が刻まれた笑顔がよく似合う人で、誰からも好かれる優しい人だったように思う。痴ほう症の気
があったのか、結局、最後まで僕の名前を憶えてはくれなかったけれど(いつも間違った名前で僕の事を呼んでいた)、そ
れでもお婆ちゃんが僕のすぐ近くの場所で消えて亡くなってしまったことは、とてもショックだったし、なぜ気付いてあげ
られなかったのだろうと、後後ながら思ったものだ。お婆ちゃんが消えたことが発覚したのは、連絡が付かない事を心配に
思ったお婆ちゃんの息子が、もしやと思いお婆ちゃんの家の窓から侵入し、そしてお婆ちゃんの持ち物全てが消え去った部
屋を見て、もうこの世から消え去ってしまったことに、気が付いたのだと言う。しかし幸運な事に、部屋には(この現象に
しては珍しく)魂が消滅したお婆ちゃんの抜け殻が残っていたらしい。お婆ちゃんの抜け殻は、まるで祈りを捧げるように、
膝を折ってリビングで倒れていたとその息子さんから聞いた。抜け殻と言うのは、たくさんの人から愛された人が、そのお
礼に少しでもこの世に姿を留めておきたいと言う想いで消えていき、そこに残される物だと言われている。よほどされ家か
ら深く愛された人でないと、この世に抜け殻は残せないのだと言う。そんな抜け殻を残した人生の終わりは、敬虔な仏教徒
らしいお婆ちゃんの最後だったのではないかと、僕はなんだか、物凄く月並みで勝手な感想を抱いてしまうのだ。お婆ちゃ
んの事をよく知りもしないくせに、と誰かに笑われるかもしれないけれど。
 お婆ちゃんが消えてしまったことで、僕の住むアパートからは、今年に入って三人ほどが消えてしまった事になる。そも
そもこの現象、お婆ちゃんみたいに魂の抜け殻が残っているのは稀で、むしろ誰にも気づかれることなく消えてしまう人の
方が圧倒的に多い。そしてその中では、愛しい人の前で唐突に消えて亡くなってしまった人だっている。キスをして居る瞬
間に目の前から恋人が消え去ってしまう人だっている。縁側で二人でおしゃべりをしている途中に、愛する人がふっとこの
世から消えてしまうことだってある。それはとても理不尽に。消失の傾向など無く。そしてもちろんそれぞれの年齢に関係も
なく。突然起きる始めたこの現象については、原因が分からないから止めようがないし、この町に生まれ生きる僕らは、もう
消えてしまう運命なんだと、僕を含めた恐らく全員が、そう受け止めるしかない状況に置かれている。




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