787:You Wandering In The Teacup (お題:紅茶の香り) 2/10 ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/10/23(水) 02:49:30.65 ID:KgQvzn720
午後八時。
今日は思ったよりも早く、仕事に一区切りつけることが出来た。
書類の作成も終わり、私は部長や後輩に声をかけてから、帰宅をすることにした。
会社のある駅から電車で三駅分。私の住む町はこんなにも近くなのに、二週間も帰らないだなんて、思えば不思議な感じ
もする。
地元の駅に着いてから、とりあえず駅前のスーパーで適当に惣菜を買い、暗い住宅街の帰路を歩いた。
我が家への道のりを十分ほど進む。
複雑な路地の最後の角を曲がると、そこには聳え立つようにしてマンションが建っている。十二階建ての、中所得者向け
のマンションだ。私はここの九階に住んでいる。
久しぶりに帰った我が家を、私は仰いでみる。
午後九時と、まだ遅くはない時間帯なのだが、仕事をしている単身者が多いのか、九階には数えるほどしか灯りは点いて
いなかった。九階にある七部屋の内、二部屋しか灯りが付いていない。右から三番目、三号室に住む市村さんの家庭と、七
号室に住む家庭の灯り……と、そこで私はとても奇妙な違和感に取り憑かれることとなった。
七号室? 七号室は、私の住んでいる部屋ではないか……。
さすがに二週間帰っていないと言えども、私は自分の部屋番号は忘れていないつもりだ。七〇七号室。なんとなく覚えや
すいし、そもそも自分の部屋番号など、よほどの事じゃない限り忘れはしないだろう。
では問題は、なぜ私が住む七〇七号室の部屋の明かりが点いているのだろうか、と言う事だ。もしかして二週間前に、私
が電気を消し忘れて部屋を出て来てしまったのだろうか。いや、変に几帳面な自分の性格からして、それは考えづらい。鍵
の施錠や、電気の消し忘れ、コンセントの抜き差しなどについては細かく何度も確認するので、まさか自分がそんな単純なミ
スを犯すとは思えない。
ではいったい誰が……?
私は、なんだか急に恐ろしいものを感じて、背筋が凍える感覚を味わった。
もしや、私の部屋に誰かが住みついているのだろうか。誰かが勝手に入り込んでいるのだろうか。もし棲みついたり待ち伏
せしていたりするのが、殺人者や頭のおかしい奴だったら……。そう考えると恐ろしい。私にとって合鍵を渡す人物などいな
かったし、渡した記憶もない。だから、部屋に明かりが点いているのは、非常におかしい事なのだ。
私は混乱しながらも、しかし自然に足が我が家に向くのが分かった。
とりあえず近くで確認してみようじゃないか。
いきなり警察に電話したところで、邪険に扱われるかもしれない。
私はそう思い、意を決して七〇七号室へと上がることにしたのだ。
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