870:カブトムシ(お題:かぶとむし)3/8[saga sage]
2013/11/28(木) 21:58:15.35 ID:Vjzb4kQx0
翌日、授業が終わると塚田は友達にカブトムシをとったことを話した。彼らは口々に「コースケ、いいなあ」とか「俺
も自動販売機に取りに行こう」とか話し、塚田はいい気になっていたが、後ろのほうから「へえ、見せてよ」と声がす
るのを聞くと、微かに嫌な予感を覚た。声の主は楠本といい、塚田はいけ好かないやつだと感じていた。とはいえ、二
人の間に直接何かあったわけでもないし、取ったカブトムシを見せない理由もない。それに他の友達も見たいと言って
いるのだ。
「じゃあ、うち来いよ。帰ったらすぐな」
そういって、いつものように帰路に着いた。
家が近い者から順に、5人が塚田の家にやって来た。最後に来たのは楠本で、遅れてすまん、というようなことを小さ
く口にしながら玄関をまたいだ。塚田は虫かごを彼らの前に置き、
「そんなでかいってほどじゃないけど」と正直な感想を述べた。
「まあそうだな、でもケガもないし、ツノ綺麗じゃん」とひとりがコメントすると、周りもそれに同意した。これには
塚田も賛成だった。このカブトムシは大きさこそ平凡だが、塚田が今まで見た中で唯一美しいと思える姿をしていた。
この宝石のようなカブトムシの躰もツノも、生死までもが自分の物になったことが塚田にとっては至上の喜びだった。
楠本も、
「すげー綺麗じゃん、カゴから出してみてもいいか?」と自分の捕まえたカブトムシを誉め、塚田は優越感が心の中に
じわじわと広がっていくのを感じた。
「もちろん、いいぜ」
そう答えると、楠本はすぐに虫かごを開け、カブトムシを指にのぼらせた。そのまま虫かごから指を引き抜くと、カ
ブトムシの黒い躰は窓から射す午後の太陽を受け、鈍く光をはね返した。どこからともなく感嘆の声が漏れる。それが
友達から発せられたものなのか、それとも無意識のうちに自分から流れ出たものなのか、塚田には分からなかった。そ
のとき、カブトムシがふわりとその翅を広げた。
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