871:カブトムシ(お題:かぶとむし)4/8[saga sage]
2013/11/28(木) 21:59:37.47 ID:Vjzb4kQx0
「うわ、窓閉めろ、窓!」
友達の一人がそう声を上げると、別の一人ががぱっと窓に向かって駆け出し手早く閉めた。カブトムシは琥珀色に透
き通った翅で優雅に部屋を一周し、逃げ道のないことを悟ったのか、楠本の胸に止まった。
「網は?」
「手で?まえられるだろ」
872:カブトムシ(お題:かぶとむし)5/8[saga sage]
2013/11/28(木) 22:00:15.28 ID:Vjzb4kQx0
カーブの連続する山道を走っていたからか、塚田は手首に疲労感を感じた。もう山はほぼ下りきり、道も真っ直ぐに
なってくる。片手でハンドルを握っていれば十分だ。そう判断し、ハンドルから右手を離してぐるりと手首を回した。
ぽきり、と小気味よい音が車内に響く。そのとき、塚田の目は、赤黒いシミのようなものを見た。クーラーの効いた車
の中で、汗が一滴背中を伝うのを感じた。もう一度右手を、今度は注意して見た。血だ。オフになっていた感情のスイ
ッチが入るような感覚を覚えた。
873:カブトムシ(お題:かぶとむし)6/8[saga sage]
2013/11/28(木) 22:01:50.16 ID:Vjzb4kQx0
***
その日、塚田は大阪への出張を早めに切り上げた。妻には帰りは遅くなると伝えてあったが、昼過ぎには仕事が片付
き、暇を潰すのも勿体ない気がして、すぐに新幹線に乗って帰路に着いた。1泊2日の出張は塚田にとって珍しいもので
はなく、わざわざ観光しこようとも思わなければ、今日が水曜日で明日も仕事があるのだからさっさと体を休めたいと
いう思いもあった。自由席の車両に空き席を見つけると、妻に夕飯前には帰るよとメールして、缶コーヒーのプルトッ
874:カブトムシ(お題:かぶとむし)7/8[saga sage]
2013/11/28(木) 22:03:59.65 ID:Vjzb4kQx0
「ふうん、最近はそういう人も私服で来るのか」
「そうみたいね」
「まあ作業服着るような―」
汚れる作業じゃないし、と言いさして、塚田は寝室の扉があいていることに気付いた。小さな袋が無造作に打ち捨て
られている。
875:カブトムシ(お題:かぶとむし)8/8[saga sage]
2013/11/28(木) 22:06:26.59 ID:Vjzb4kQx0
この血はいつから付いていたんだ、妻を刺した時か、それとも埋めた時か?妻を刺し殺した後、俺は手を洗ったのか?
塚田は自問したが、ほとんど何も思い出せなかった。ハンドルを持つ手が小刻みに震えているのを感じた。
そう、俺は妻を殺したのだ。塚田はようやく、はっきりと恐怖を認識した。子供がいない塚田にとって、妻はこの世で
唯一の宝と言っていい存在であった。その妻を自らの手にかけたのだ。何故だ?何故そんなことをした?何故、俺は妻
を殺したんだ?
876:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/29(金) 20:56:52.90 ID:DLSxNuQuo
お題ください
877:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/29(金) 21:19:53.56 ID:jv72MdJAO
>>876
ララバイ
878:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/29(金) 21:28:33.10 ID:jv72MdJAO
カブトムシ、オチで「おっ?」となった
深読みでなければある人とある人は同一人物なのかな
文章が丁寧で読みやすかったと思う
879:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/30(土) 00:00:40.91 ID:jyWhn25AO
久しぶりの投下だね
後で読む
880:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/30(土) 10:11:33.14 ID:F3X5g1nX0
>>878
感想ありがとうございます。
同一人物というより、塚田にとって「宝物を奪おうとした」点で同じような存在、
というような意味合いのつもりで書いてみました
本当に同一人物だったのかどうかは、読者の想像にまかせるということで・・・
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