過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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903:黒の牢獄 (お題:遺影)1/6[saga]
2013/12/09(月) 22:27:00.89 ID:i5OAEZ7e0
<thief>
 彦坂大輝は小さい頃、よく友達を家に呼んでゲームをしていたことを思い出していた。一番やったのはド定番ともいえ
る「スーパーマリオ」のシリーズだった。囚われのお姫様を救い出す、そんなストーリーは誰も気に掛けず、ただ目の
前のカメを踏みつけながら進んでいくのが彦坂や友人にとって楽しかった。現実世界で、お姫様が攫われたら一国の軍
隊が動くだろう。一般市民だって警察が動く。ちょっとジャンプ力が異常なだけのしがない配管工が、なぜ単身敵の根
城に乗り込んで姫を救い出さなければならないのか、これはいまだに彦坂の中で謎として残っている―だが、彦坂自身
が似たような事態に遭遇するなんてことは、「スーパーマリオ」に触れてから今に至るまで、一度も考えたことはなか
った。
 館野亮は彦坂よりも2つ年上で、二人は大学のヨットサークルで知り合った。後輩たちに対していつだって頼れる存在
としての顔を見せ続けていた館野は、皆から亮さん、と呼ばれ慕われていた。いかにも兄貴めいた雰囲気のある男だっ
たが、実際は弟も妹もおらず、地元では地主だか何だかで名家の一人っ子だと彦坂は聞かされていた。館野は自分の地
元を山奥で何にもないよ、と自嘲していたが、確かに彼にとっては何もないと言ってよかったのだろう、と彦坂は考え
ていた―彦坂から見た館野は、海でしか生きられない男だったからだ。
今、館野は、実家の一室で、身動きが取れなくなっている。

<prison>
 俺は今、真っ黒な檻の中に閉じ込められている。外へ出ることすらできない今のこの状況は、不自由も最も忌み嫌って
きた俺にとって、とても耐えられるものではない。救いがあるとすれば、周りにいる人間が俺に悪意を持っているわけで
はない―すなわち拉致監禁されているわけでも罪を犯して投獄されているわけでもないことぐらいだろう。そもそもここ
は俺の実家だ。
 田舎の人間にとって、慣習や付き合いというものは手錠や足枷よりもきつく四肢を縛り上げる。俺は幼いころからそれ
を疎ましく思ってきた。館野の跡取りなんだから、と何かにつけて「お行儀」を強要してきた両親に反発して横浜にほど
近い大学に進んでから9年、この土地に戻るのは初めてのことだ。だが、特に郷愁めいたものは感じなかった。むしろ、
このくだらないセレモニーから逃れることはできないのだと思うと、うんざりを通り越して恐怖さえ感じていた。


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