947:私たちの台所 1/6 (お題:隠し味) ◆p4MI6fJnv2[sage saga]
2014/01/06(月) 02:11:29.72 ID:0WwRA8qdo
私の家には代々、台所において、女性の間だけで密かに受け継がれてきたものがある。
それは厳格な決まり事として曾祖母から祖母へ、祖母から母へと、先祖から今日に至るま
で連綿と受け継がれてきた。大まかに言うと一つは調理の技術。これは技術を含む、台所
に関わる知識や知恵すべてを指している。そして一つは調理をするための道具である包丁
だった。どちらも、ともすれば一般的なことかもしれない。けれど私の家では、台所はま
さに聖域であり、完全な男子禁制、さらに言えば、直系の女性しか入ることを許されなか
った。つまりもし、私の弟に彼女ができ、その彼女が嫁いできたとしても、この家の台所
には入ることができないということだ。そしてなによりも一般的ではなかったことは、こ
れは技術の一つではあるけれど、私の家では動物の解体という特別なことを行っていた。
調理の技術は幼い頃から教え込まれる。そして包丁は一人前と認められた証として、母
から娘へ、娘から孫娘へと受け渡されていことになっている。決まり事に習って、私は物
心ついた頃から母と祖母(祖母は去年他界したけれど)によって調理の技術をとことん教
え込まれていた。
私は今日、母から包丁を譲り受けた。まだ陽も昇っていない朝の台所だ。十二月の朝は
とても寒く、私はまだ寝起きということもあってブルブルと震えていた。母は相変わらず
朝からシャンとしていた。大した物だなと私はいつも感心する。台所を見渡すとすでに
諸々の準備は整っているようだった。シンクからワークトップ、コンロ、アイランド型
テーブルに小ぶりの作業台、すべてが丁寧に磨かれたのだろう、母のようにシャンとして
いる気がする。その中でも特に目立つのが中央に位置しているテーブルだ。テーブルの上
には様々な食材が用意されている。人間が一人寝そべることができるくらいの大きな木製
のテーブルだ。とても年季が入っており、大きな染みや小さな染み、黒ずんだ細かい傷が
所々に見て取れる。そこには野菜や魚や色々なお肉、キノコ類やフルーツ、一通りの食材
たちが積み上げられていた。床にさえ、邪魔にならないように置かれている。作業台には
数々の調理器具がいつでも使えるように、フレンチのカトラリーのように整然と並べられ
ている。完璧だなと私は思った。ただ、ひつだけ足りない物があるとすれば、この空間の
温度だろう。ほんとうに寒い。私は調理に関する様々な知識や技術の習得に対しては、苦
労することも多かったがなんとか乗り越えてきた。けれど寒さだけはどうしても克服する
ことができなかったのだ。テーブルや床に置かれている食材たちも、心なしかブルブルと
震えているように見える。
1002Res/567.52 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。