950:私たちの台所 4/6 (お題:隠し味) ◆p4MI6fJnv2[sage saga]
2014/01/06(月) 02:13:34.25 ID:0WwRA8qdo
られる気持ちがした。私はそれからどのような経緯を経て、今、自分が母と接しているの
かあまり覚えていない。ただ一つ今思うことは、グロテスクというのは鼓動しながら外界
に晒された内蔵の集合なんかでなく、そんな状態を作ろうとした、いや、実際に作った母
の意識、意思ではないだろうか、と今では思っている。
私はまた、私自身の手によって初めて動物を解体したときのことを思い出した。私は震
えていた。いや、怯えていた。何度も目にしてきたことではあったけれど(母の残虐な行
為とは別にである)、実際に自分が包丁を握り、生きた物を殺めるということに対して、
私はとても怯えていた。私は意識して今から解体するべき動物の目を見ないようにしなけ
ればならなかった。そしてこれから行うことを想像しただけで吐き気がした。ただ見るの
と実際手を動かすのとでは天と地ほどの隔たりがあることを痛感した。経験なんてしたく
ないと心底思った。けれど私はしなければならなかった。それが決まりだった。そんな私
を見て母はそっと言った。「恐れなくていいの。怖がらなくていい。私たちはやるべきこ
とやるだけ。決まりなんて関係ないの。生きるために包丁を動かすだけ」。その言葉はそ
の瞬間の私を救いはしなかった。私は吐き気と怯えを抱きながら必死に包丁を振るった。
腕や肩や全身が疲労していくのを感じた。私はなんとかそれをやり遂げた。そして解体が
終わったとき私は泣いていた。ただ悲しかった。祖母の優しい言葉と、母の残虐な行為と、
自分の経験が、私の体中に混沌と渦巻いていた。私はとにかく悲しくて、そしてそれはど
うしようもなかった。
私には覚えることが山のようにあった。食材の種類や調理法だけではなく、動物の解体
から捌き方という特別なことや保存の仕方、飼育の仕方、または道具の使い方から手入れ
の仕方、ほかに様々な知識に知恵に経験すべきことが山積みだった。私はそれらのことを
考えると目が回るような気持ちがした。経験と知識は際限なく私の目の前に差し出され、
吸収されることを、ずっとずっと未来まで並びに並んで延々と渋滞を作って待っていた。
私はとにかく一日一日できることをできるだけするしかなかった。先を見るとうんざりす
るだけだった。
私は一度、この決まり事について母に聞いてみたことがあった。どうして私の家にはこ
のような決まり事があるのか、どうして他の家にはないのか。私はまだ小さくて、周りの
友達との違いに困惑していたのだ。そして私はそのことを母に聞いてみた。すると母は
「私たちは特別なことしている。普通の家庭では動物なんて解体しないから、だからそう
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