14: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/15(月) 22:27:49.96 ID:uzaH7YtN0
「正直、私はこれ以上関わりたくないんだ」
水無瀬は頭を抱え、心中を口にする。
「……ごめんなさい」
水無瀬が関わりたくないだろうことは、八重樫もわかっていた。
それでも、何かの糸口を掴めるならと……迷惑を知って尚、頼ってしまった。
「最後に一つだけアドバイスしておくよ。君の胸中はわからないでもないからね」
「彼の記憶が戻る前に……出来る限り好意を向けてもらえるよう努めるといい。距離を置いたままは良くないよ」
水無瀬自身が、かつて成し得なかったことだ。
どこか、昔の自分と目の前の女の子を重なって見ている……だからこそ、柄でもないことを口にした。
「水無瀬さん……」
八重樫も、彼が重ねているだろうことを理解する。
その時、入り口の鈴がカランと鳴った。
「お疲れ様でーす。買出しから戻りました」
「あっ……お帰り」
カウンターにもたれ掛けていたハルは、ぴくりと反応し一砂に挨拶を返す。
「いらっしゃ……」
一砂は買出してきた品を冷蔵ケースに詰めようとカウンターに戻りつつ、客に挨拶を交わそうとした。
だが、見知った顔がそこにあったことにより、言葉が一瞬詰まる。
「……あ……」
強張った表情を表に出してしまった。
それは八重樫だけでなく、水無瀬も同じである。
「八重樫……と、知り合いの方……ですか?」
八重樫の向かいに座る見慣れない男性に、軽く会釈を交わす。
少し強張り気味であった男性の表情は、次第に色を取り戻していた。
「私は彼女の主治医でね。少しばかりお喋りさせてもらっていたんだ」
冷静に嘘をついた。直後、一砂に気づかれないよう八重樫に目配せを送る。
「そう……なんですか。八重樫、怪我してたのか?」
「腱鞘炎だよ。だいぶ回復しているけどね」
咄嗟に専門知識が浮かぶはずが無いだろうことを考慮し、水無瀬が口を挟む。
その言葉に、八重樫の表情は少しばかり落ち着きの色を見せる。
「うん。病院がこの近くだったから」
「あ……だから最近、都合が空かなかった……とか?」
「そ、そうなの。ごめんね……高城君」
最近会えなかったことを変に思われるよりも嘘で安心させたい。そう考えての回答だった。
ただ、理由があるとはいえ、申し訳ないと思ってしまう。
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