過去ログ - 続編・羊のうた
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19: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/16(火) 00:20:24.88 ID:OPYTK7tZ0

「ふぅ〜、最後お客さん多かったね」

「でしたね……あんだけ多いと、俺捌けませんよ」
慣れない身で今日の人数はキツイと、一砂は疲れを顔に出す。

「まぁ慣れるさ。そのうち」
疲れたのはハルも同じであり、背の合わない二人は駅方面に向かい歩いていた。

「てゆーかさ、一砂にちょっと聞きたいことあるんだけど」
ハルの表情は。疲れの色から怪訝に近い表情に変わる。理由は、水無瀬と八重樫という客が起因することだった。
その顔を覗き込んだ一砂は、脚を止める。

「……俺から、先にいいですか?」

「うん?」

「あの二人、どんな話をしていました?」
一砂は、八重樫と水無瀬との会話に違和感を覚えていた。
あの水無瀬という男性とは間違いなく初対面だが……以前にどこかで合った気がしてならない。
あちらは覚えている素振りを見せなかったが、顔を合わせた時の空気、何かがおかしいと感じた。
八重樫にしてもそうだった。

「あの水無瀬って人、一砂が帰って来る前から、アンタのこと知っていた風だったけど」
珈琲を運んだ時、間違いなく水無瀬という男は「一砂君」と発言していた。
そこから二人が一砂の知り合いであるだろうと聞き耳を立てていたのだが、一砂が帰ってきてからの様子がおかしいことに、ハルは違和感を覚えている。

「……!!」
予期こそはしていたものの、ハルの証言に驚きを隠せない。
その表情を見たハルは心配を覚える。

「ねぇ……何があったの?」
二人のやりとり、その後の会話、そして一砂の驚く様を見れば、明らかな異変が包んでいるのではないかと……声を掛けずにいられなかった。
一砂は、高ぶる脈拍と狼狽を抑え、自身を落ち着けようとしていた。

「いや……その……」
狼狽は抑まった。だが、脈拍は已然として高まるままだ。
これ以上聞くべきか、否か……己に問いをかける。
この感じ、あの件と同じ恐怖に似ている。もう何も聞かず、ハルにも全てを忘れてもらったほうが良いのかもしれない。

だが、一砂の意思を一蹴するかの如く思考は勝手に動き回る。
あの男が知り合いだとしたら何故関係性を隠した?八重樫にしてもそうだ。隠す意味は何なのか?
二人はどんな関係にある?俺の何を知っている?この恐怖に関係しているのか?
そもそも……俺自身、何かおかしいんじゃないか?一体、この先にあるのか?
脈拍が上がるにつれて昂ぶる息遣いを、必死に抑えた。

その様子を危げに思ったハルは、一砂の肩を掴み気扱の言葉を掛ける。
最初は耳に入ることはなかったが、気息を抑えるにつれて、はっきりとその音声が聞こえてきた。

「何でも、ない……!!」

「一砂……全然大丈夫じゃないじゃん!!」
狼狽を必死に隠す一砂を見て、不安を拭えるはずがない。
一砂もハルの胸中を理解して尚、抗弁を続ける。

「本当に何でも、何も無いですから……忘れてください」

「見たこと、聞いたこと……忘れてください」
それがいい。そうするしかない。
これ以上深入りすると……もう、戻れないような気さえする。
だから、懇願するしかなかった。






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