31: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/19(金) 23:15:58.96 ID:VC9VX1go0
「さて、どうしたもんかね……」
一砂が帰宅する前にと江田宅を後にし、日が暮れかけている帰路を二人は辿っていた。
「木ノ下くんは普通に接するつもりじゃなかったの?」
先ほどまでは意気を揚していた木ノ下の発言に、八重樫は当然ながら疑問を抱く。
「ああは言ったけど……職場の人にハナシを聞かれてたってのはマズイと思うんだよね。実際、高城の耳に入ったら俺たちを見る目が変になるだろうしさ」
「そう、だね……」
八重樫も木ノ下の意図には同意であったが……それよりも一砂の記憶が戻ることは、やはり怖くて仕方がない。
「八重樫サンは何か考えある?」
「……」
記憶が目覚めた時、彼が求める血は無いのだとしたら。奇病が発することなく記憶だけが戻り、彼が実態の無い影を追い求め、自分の価値が失われてしまったら……と、嫌なことばかりを考えてしまう。
自分の身を案じるばかりで、大切な人の未来を模索することが出来ずに怯えてしまっている。
惨めで浅ましい己の内面を目の当たりして、冷たい憫笑が滲み出た。
「ウェイトレスの人にいきなり接触するのもアレだしさ、先ずは客として行ってみない?」
無言でいる八重樫の意中を知る由もなく、仕方なく木ノ下は思案を口に続ける。
「アイツの態度とか見てりゃ……なんかわかりそうな気がするしさ」
友人であると自負しているからこその方策であり、その思惟を八重樫は羨ましく思った。
「……木ノ下くんに任せるよ」
なる様にように生るしかないのかもしれないと、少し投げやり気味に同意する。
今の自分は、一砂の為になることを何一つしてあげられないのだと……拗ね気味の音声で。
47Res/46.56 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。