過去ログ - 続編・羊のうた
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32: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/20(土) 01:03:12.74 ID:KQS4xPSf0

「はいどーぞぉ」
ふて腐れ気味の慣用句を述べながら、ハルは三つの珈琲をテーブルに置いた。割と適当に。

「ありがとうございます……なんか、新鮮ですね」
一砂は苦笑いで会釈を返すが、ハルの膨れっ面は収まりそうにもない。
その様子を見て、八重樫と木ノ下はお礼と共に乾き笑いを返していた。

二人が来店した際、偶然にもミルクホールの客足はぱったりと途絶えていた。
来店を知らすベルが鳴り終えた直後、木ノ下が「よぉ、久しぶり」と気さくに挨拶を交わすと、一砂は旧来の友に会ったかのように歩み寄る。一砂は多少の困惑こそあったものの、何を言葉にするか考えるよりも早く木ノ下がすらすらと世辞抜きの絡みを入れたことにより、いつしかの雰囲気がそこに戻っていた。
その様子を鑑みた杏子が「今日こそはお客さんになっていいのよ」と気を回したため、今現在三人はテーブルを囲んでいる。

「杏子さん。なんで一砂だけに甘いんですかぁ〜」

「そうかしら?ハルちゃんのつまみ食いも結構見逃してるんだけどなぁ」
一見優しそうで鋭い突っ込みに溜飲を強制的に下げられたハルは、自発的に仕事を探し始める。
その慌てふためく様子を、一砂は笑って見送った。

「んっだよオマエ……羨ましい職場じゃんか」

「そ、そうか?」
木ノ下の呟きに対し肯定も否定もしなかったが、よくよく考えるとそうなのかもしれない。
一砂は、ミルクホールが心地良い空間だと感じていたものの、木ノ下の言うような意味では捉えたことがなかった。

「俺も、あんな姉ちゃんほしいわ……」
カウンターの奥から顔を覗かせる杏子をちょっと見しながら、更に木ノ下は続けた。

「そういや木ノ下って、姉ちゃんいたんだっけ?」

「おぅ。愛想のない姉ちゃんがな……店長さんを見習ってほしいもんだ」
取り留めのない会話が続いていた。事実、何事もなく良い雰囲気が続いている。
だが、今しがたの流れに、八重樫は身を強張らせた。

「あ……八重樫。こないだはゴメンな」

「っ、え?」
雰囲気とは正反対に属する事柄が頭をよぎっていたせいで、一砂が何を謝っているのか八重樫はまったく解らないでいる。
木ノ下が口にした「姉」という言葉で、一砂がどういった反応を見せるのか、何か起きるのではないかと……八重樫の心拍数は弾んでいたのだ。

「こないだはほら、ロクに話せなくてさ」

「ううん。そんなことないよ……高城くんが作ってくれたクレープ美味しかったし」
そんな心配とは裏腹に、一砂に変化は全くと言ってよいほど見られない。
木ノ下が意図せず発言していたことが功を奏しているのかもしれないが、何事もなく普通の高城一砂のままだった。

「また……作ってほしい」
来店する前は、会うに恐れを抱くほどだった。
けれど、こうやって取り留めなく居られることに、八重樫は心から屈託のない表情を生む。






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