過去ログ - 続編・羊のうた
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46: ◆wPpbvtoDhE
2013/08/26(月) 01:16:10.66 ID:ZXiOza1x0

「な、なんだよ木ノ下」
話を遮られることに一瞥を喰らうかとも思えたが、一砂の様子にはもはや余裕が一切見えない。
返された返事に生気は篭っておらず、その目は虚ろになりつつさえある。

「やっぱ二人とも……何か、知ってるんだな」

「……!!」
何と言葉を返すべきなのか、今この場で何を言えば適切なのか……木ノ下は、判断がつけることが出来ないでいる。

「……ごめん。知ってる」
八重樫が口を開いた。
その返事は一砂の予想通りだが、更に胸を締め付けさせるだけでしかない。

「でもね、高城くんの為だから……ごめん」

「俺の為にってことは、何となく解ってた……だから、教えてくれ」
二人がここまでして隠し通すこと。それは予測していた空白の時間のことなのだろうと、思い当たる節はある。
だが、そこに一体何があったのか。時折過ぎる言い知れない不安の正体は何なのか。体中の孔が開きそうなほど、ざわめきが止まない。

「わかった……けどな、その前にお前がもう一度決めてくれ」
少し間を置いて、木ノ下は静止をかける。

「このまま何も知らずに、知らないフリを続ければ……お前は普通に暮らし続けられると思う」

「けど、全部聞いちまったら……どうなるかわからない。お前自身が危うくなる」
正体を掴むことさえしなければ普通に暮らせる。だが、そうでなければ自身が危うい。その意味が全くわからなかった。
本当に聞くべきか、やはり止めておくべきか……二人の気汲みがあまりにも重過ぎて、決心が揺るぎそうになる。

「高城くん。君がどう変わることがあっても、私はちゃんと一緒にいるから」

「だから、高城くんも私を信頼して。絶対に、私を拒まないで……ほしい」
水無瀬から助言された言葉が、今になって脳裏を過ぎる。
けれど、一砂の記憶が今生残るならば……こうやって伝えておくしかないと、八重樫は一砂を見つめる。
今の八重樫の目は怯えに屈してはいない。今後直面するだろう事態に、真摯に向き合う意思が目に灯っていた。

「そうだ。信頼してくれよ高城。あん時みたいに一人で抱えるのは絶対に止めてくれよな」
木ノ下もまた同じくして、一砂の目を見据える。
二人の従容たる雰囲気を受けて、一砂の胸を締め付ける狭窄は、いつの間にか解かれていた。

「あぁ。頼むよ」
大丈夫。何を聞いても大丈夫だと、そう思えた。






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