過去ログ - 続編・羊のうた
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47: ◆wPpbvtoDhE
2013/08/27(火) 00:00:20.00 ID:L2drrLbr0

「あ、あの……」
佐々木は困惑を声に出す。
三人の様子、特に一砂の異変が顕著であり、目の前の空気はそれと違うものを孕んでいたから。

「木ノ下、八重樫。やっぱり佐々木さんの話を先に聞いてからでもいいか?」

「うん……順序は、それからでも大丈夫だと思う」
一砂は、置いてけぼりになりつつある佐々木を鑑みたわけではなく、先ほど聞かされた「弟」という言葉が胸につかえたままだった。
八重樫も木ノ下もそれとなく察したのか、一砂の意向を汲み取る。

「話を続けてもらえませんか?俺に何を聞きたかったのか」

「……わかりました」
目の前の彼が何を煩ってこうも疲労した様を見せているのかと気になる。
だが、緊迫を纏う一砂の視線を前にしてそれを聞くことは出来ず、佐々木は仕方なく本題へと戻す。

「千砂さんのお墓は、どこにあるのでしょうか?」

「……」
その話の続きは、全くを以て理解が出来なかった。
彼女が今口にした「千砂」とは誰なのか、脳裏にすら過ぎらない。
突拍子のない「お墓」というのは何のことだ?

「千砂というのは、俺の、知り合いですか……?」

「え……貴方は千砂さんの病室に居たじゃ……」
病院では個室に入院していた。
誰かの病室に足を運んだ記憶などは全く思い出せなかった。

「入院してた千砂さんから聞きました。貴方は弟だって」
思考を回す一砂を怪訝に思いながらも、佐々木は言葉を続ける。
更に飛び出した、千砂という人物が自身の親族であるという発言。
一砂は、もう……何が何のか、理解が及ばないでいる。

「だから、私は、千砂さんの弟である貴方に……千砂さんのお墓の場所を教えてほしくて」

「ごめんなさい。酷なこと、ですよね……お姉さん、だもんね」
彼はショックを受けて未だに立ち直れないのだろうと、佐々木はひとりでに解釈し謝った。

「……」
佐々木が言っている言葉の意味を、沈黙の中で探り当てる。
千砂という人物は、自分の姉なのだろうと。そして、その女性は死んだ。
どこにも、そんな思い出はない。
会ったことも、触れたことも、言の葉を交わしたことも……一度だってあり得はしないのだ。


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