975:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/29(日) 23:33:37.21 ID:n+EZ0SdMo
池山さんは親身にあたしの話を聞こうとしてくれていただけではなかった。その日が近
づいてくると彼はあたしに柔らかくだけど決断を迫るようになってきた。
「私と君のママのせいで二つの家族が壊れようとしていることは理解しているつもりだ」
彼はハンドルを握って夜の通りを真っ直ぐに見つめながら言った。
「それは本当に申し訳ないと思っている。でももう自分の気持に嘘はつけないんだ」
「また自分勝手なことを言うのね」
「それも承知している。その十字架は一生背負っていうつもりだ。でも、それでも君のマ
マを愛しているし、一緒に暮らしたいんだ」
「あなたの大事な大事なお姫さまを傷つけることになるのにね」
一瞬池山さんの表情が暗くなった。それでもその後に続けた言葉はしっかりとしていた。
「それでもだ。四人の子どもたちには本当に申し訳ないと思っているよ。でも、だからこ
そチャンスが欲しい。君たちを幸せにするチャンスをもらいたいんだ。私たちと一緒に暮
らしてほしい。大切にすると誓うよ」
あたしは初めて池山さんと会ったときから真面目に考えていた。
お兄さんとのことはひとまず置いておくとして、現実的に考えれば実はパパと一緒に暮
らすという選択肢は全く現実的ではなかった。あの会社人間のパパと暮らすということは、
実質的には子どもたちだけで暮らすというのと同じことだった。これまでだってどうして
も避けることができない行事とかの際は、パパとママがそれぞれ何とか都合をつけて対応
してくれていた。それをパパ単独でできるとは思えない。
あるいは親権はどっちになるにせよ、寮に入って一人で暮らすかだ。寮に入った後の妹
ちゃんの落ち込みようを見るまではそういう選択肢もあったけど、あのひどい様子を見た
後ではとてもそんな気にはなれない。あたしは妹ちゃんほど家族命のファミコンではない
にしても。
「あなたは自分の子どもたちとお兄ちゃんとあたしの両方を引き取りたいの?」
「兄はともかく、姫と君、そして君のお兄さんの三人とは一緒に暮らしたい。でも、場合
によっては姫には寮生活を続けてもらって、兄と君たち兄妹の三人でもいいと思っている
よ」
「何で」
「親権争いは男親に不利だから。妻は姫の親権を主張しているし形式上は私が有責配偶者
ってやつらしいから、争っても難しいと弁護士に言われているんだ」
「弁護士って・・・・・・そんなにどろどろしてるの」
「そうでもない。妻とはもう夫婦としては一緒には暮らしていけない。あっちにも男がい
るしね。でもね、それでも私と妻が姫の両親であることには変りはない。姫の幸せを一番
に考えることに妻とは同意しているんだ」
「じゃあどうやってどっちが妹ちゃんを引き取るのかを決めるんですか」
「君たちと一緒。姫の意向に任せるということで妻とは合意している」
家族のことが大好きな妹ちゃんにはつらい選択になるだろう。あるいは、お兄さんと一
緒に二人で暮らすという選択肢があれば妹ちゃんも救われるのだけど、そんなことをこの
人が許すはずはない。
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