38: ◆iIfvn1jtvs[saga]
2013/08/20(火) 21:47:16.61 ID:A3JfcJLv0
瓦礫の中から、彼女は現れる。
その体は傷だらけで、血も出ている。
だが、彼女の表情は満面の笑みで、今もなお恐怖は感じていない。
「ええ。私はあなたを楽しませてあげる。絶対に飽きさせたりなんてしないわ」
彼女はくるりと一回転し、黒色の傘を開いた。
一切の無駄が省かれた洗練された優雅な動作。
それはまるで映画のワンシーンをきり抜いた様だった。
「血塗りの雨」
青年と姫を覆う様にドーム状に銀色の刃が空中に生み出される。
その全ての切っ先は青年の方を向いていた。
彼と彼女の差は草食獣と肉食獣の差に似ていた。
彼がどんなに闘志を燃やそうと、牙をむこうと、今の彼は草食獣であり、彼女は肉食獣である。
そこにはどうやっても埋められない圧倒的な差が、まるで何かの悪戯の様に茫漠と横たわっていた。
「これは私の血と肉。あなたは私の血と肉に貫かれる。それって私とあなたが一つになるって事」
「ならその前に俺がお前を貫いてやるよ。それで俺とお前が一つになれる。」
姫がにこやかに笑い、右手で彼を指す。
それに対応するかのように青年の漆黒の翼が音を立てて羽ばた――――。
「青年君。そこまでにしておくんだ」
声のする方を見ると、そこには眼鏡がいた。
赤く刺々しい甲殻に覆われているせいで表情は読めないが、この状況に困惑しているのは声色で分かった。
「……興醒めね」
姫は心底残念そうに呟き、傘を畳む。
それに合わせて、銀色の刃もまるで幻であったように消えていった。
「この埋め合わせは絶対にするわ。あなたもとっても楽しみにしてて」
そう言い終わると、彼女の体はまるで溶ける様に消えていった。
212Res/143.57 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。