過去ログ - 鷹富士茄子「幸運にめぐまれて」
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120: ◆bsVOk5U9Es
2014/02/11(火) 23:04:04.27 ID:jqoNS2MWo

「さて、そろそろ行くかね。」

席を立った男性は、財布から千円札を三枚カウンターの上に置きます。
「もしかして、ちょっぴり値の張るお店なのかしら」と、思わず財布と睨めっこ。
そんな私を見て主人は「大丈夫だよ」と言います。

「代金はアイツから貰ってある。」

先程の男性のことなのでしょう。上着を小脇に抱え、緩めたネクタイを締め直しております。

「いえ、そんな。申し訳ないです。」

私の言葉に、彼は笑って答えました。

「気にすることじゃないさ。この店に着くまで随分と大変だったろう。
 なにせ常連でも迷うとこにある。三度に一度辿り着くかどうかって所だからな。」

確かに、細い路地を幾つも曲がり漸くと到着したのは、既に方向感覚もすっかりと音を上げきった後でありました。
私はともかく、常連の方々ですら辿り着けないことがあるというのですから、本当に変わったお店でございます。
そんなことを考えている間にも男性は言葉を続けておりました。

「そんな所に店なんて構えるから一見さんとなんか合うことも少ない。
 そして彼らは大抵一見さんのままだ。
 折角面白い店なのに、それじゃあ寂しいだろう?
 だからかね、またここで会えたらっていう願掛けのようなモンさ。
 今回は俺が持つから、次はお嬢ちゃんが持っとくれってね。」

「まぁ! 素敵なお話!」

「だろう?」

ニカッと笑う男性はどこか少年のようで。
不思議と惹きつけられるものがあります。
袖振り合うもなんとやら。
ヘアピンからの一連は、きっと、そういうことなのでしょう。

「でしたら、ここはお言葉に甘えさせて頂きますね。」

「オウ。」

片手を上げた男性が扉へと手を伸ばします。
時を同じくしてガラガラと開かれる引戸。
次いで聞こえたのは「済みません」という女性の声でした。



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