22:一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo.[saga]
2013/09/04(水) 23:19:44.23 ID:I2yqYOzuo
「……うるさい」
魔道元帥に叩きこまれる魔力の奔流がその激しさを増す。
「ほうほう、自覚はあるようだな。愉快なことだ……」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
その、汚らわしい口!王子君を汚したな!」
そしてさらに魔力の奔流は轟音すら立てて放たれる。
その魔力量、威力。それに魔道元帥は戸惑いを覚える。常人……いやさ、一流の術者でもここまでの魔力を放出し続けるなぞできない。
「む……?」
ニヤリ、と勇者の口角が吊り上る。
「どうやらこれまで我慢比べでは負けたことがないみたいだね?偶然。私もだよ。
我慢比べで負けたことはないよ……」
余裕綽々といった風の勇者に魔道元帥はちり、と違和感を。
「貴様……これほど高濃度の魔力をなぜそうまで放ち続けられる……?」
ニタァ、と粘着質の笑みを浮かべて勇者は応える。
「汚らわしい魔物には分からないだろうね。人の愛、って奴が。
うん、そう。愛だよ、愛。
王子君のことを考えたらね、それだけで力が湧いてくるの。それこそいくらでもね。
ああ、王子君、好き、好き。好きぃ……」
片手で膨大な魔力を放ちながら勇者はもう片方の手で愛おしげに自らの下腹を撫でる。
「ああ、王子君。王子君。好き。好き。好き。好き。好きだよ。好き。もう、王子君のことを考えるだけで思考回路がショートしちゃいそう……」
うっとりと桃源の域に至る勇者の放つ魔力は更にその出力を増す。増していく。
「ば、バカな!この私が弾き返す余裕すらないなぞ、認めん!認めんぞぉ!この私が処理できぬ魔力量なぞ、ありえん!ありえんのだ!」
魔道元帥の焦りなぞどこ吹く風で勇者はうっとりと自らの妄想に耽溺する。
「王子君……。好き、っていつか言えるかなぁ……。ううん、言ってほしいなあ……ってこれは流石に無理目だよね……」
にへら、と緩む貌と反比例するように魔道元帥に叩きこまれる魔力はその出力を上げていく。
「馬鹿な。やめろ!それ以上は!」
処理しきれないとばかりに悲鳴を上げる。
その声に、ああ、と勇者は意識を目の前の魔物に戻し、にこやかに笑う。
「まだまだいくよー!」
「ぐ、は!やめろ!やめてくれ!それ以上は!無理だ!入らない!かせいjんせお!」
「倍プッシュだー」
にこやかに、勇者が笑う。花も恥じらうほどの可憐なそれ。それが魔道元帥の最期の記憶であった。
「うーん。花火としてはあまり奇麗じゃなかったなあ」
弾けとんだ魔道元帥の散り様を無感動に見やり、勇者は軽く反省する。
「魔力に色を付けないといけないなあ。それも、遅滞で発動する感じで。やっぱり華やかじゃないと王子君も退屈するもん!」
次の花火はもっとうまくやろう。もっときれいに、色とりどりの花を咲かせよう。
そう決意を新たに勇者は魔王城の深層にぐんぐんと突き進むのであった。
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