過去ログ - 貴音「こひのとらはれ」
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18:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/04(水) 18:56:05.76 ID:bKqi92pu0
「貴音」

「はい」

まあそんな御託は実際どーでもいいのであって、
それで貴音が喜んでくれるのなら三日三晩だろうが言い続けますよ。

「愛してるよ」

うん、表面上は無邪気な笑顔を浮かべたかのように見えるが、実際にはほっとした時の表情である。
見くびらないでほしい、欺けると思っているのだろうか、俺はそんな表情は見たくない。
なぜ「愛してる」と言ってこっそり安堵されなければならないのか。

不安があるなら怯えてくれれば良いし、怒りがあるなら怒ってくれれば良い。
嬉しい時には笑って、悲しい時には泣いてほしい。
欺かれると、傷つく。

ふいに貴音の顔が視界いっぱいにまで近づいてきたと思うと、俺の唇に柔らかなものが触れた。
俺が反応を示す間もなく貴音はすぐに身体を翻し、車から降りてしまう。
それから後部座席のドアを開くと、素早く荷物を手に取り、
なにごとかを言い残しエントランスの方へと駆けていってしまう。

声というより風の便りといったほうが正しそうなその言葉は、たぶんこう伝えていた。

「わたくしも」

一回目のオートロック、自動ドア、二回目のオートロック、自動ドア。
貴音は俺の視野の中で徐々に小さくなっていき、ついに視界の影へと消えてしまった。

俺は勿論あのオートロックの番号を知っている。
追いかけることだって出来る。
だが俺はただぼんやりと、無人のエントランスを見つめたまま、動かない。

夜間におけるマンションのエントランスというのは、不気味な場所である。
何百もの人間を収容しておきながら滅多に人は訪れないし、訪れてもただ通り過ぎるだけだ。
照らし出される者のない明かりが、ただ煌々とまばゆい光を放ち続ける。

「嘘ごと愛す、ね」

雑作もないことである、そのために俺が傷つこうがそれがなんだというのだろうか。
だがもし、もし、貴音が俺を信じるために傷ついているとしたら。
だとしたら……

「……なに考えてんだ俺の馬鹿」

馬鹿。


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