過去ログ - 罪木蜜柑「カムクライズルは笑わない」
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1:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:47:33.73 ID:Y5kYTKfQo

 ――カムクライズルの話をするのは、私にとってかなり気の重いことです。未だに整理がついていません。

 私に無関心な人なんて、今まで嫌というほど見てきたけれど――彼はいつも、この世界の全てに興味を持っていないんじゃないか、とさえ思えるほどの冷たい表情をしていました。

 私の通っている私立希望ヶ峰学園は通称”希望の学園”と呼ばれています。それはこの学校が”超高校級”の才能を持つ生徒のみを集め、その才能を発揮する場を与えているから……「才能こそが希望」、それが希望ヶ峰学園の第一の理念です。

 でも、私にとっての希望とは、この”超高校級の保険委員”の才能なんかじゃなくて……ただ、私のことを見てくれる、たった一人のひとがきっとどこかにいる、ということでした。

 それはきっと普通の女の子が普通に持っているお姫様願望のようなものなのでしょう。けれど、普通でない人生を歩んできた私にとっては、その「普通」こそが生きる糧なのでした。


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2:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:48:39.30 ID:Y5kYTKfQo

 ――だけど、その私が。私どころか、この世の全てに興味を持たない”死神”であるところの彼に惹かれたのはどうしてなんでしょう。

 そうです、私は彼に惹かれていたのです。私に愛を与えてくれる人より、彼から与えられる愛を求めたのです。それは私の人生で――初めて自分 からなにかを求めた瞬間でした。

以下略



3:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:49:33.86 ID:Y5kYTKfQo



「死神の噂、ですか?」

以下略



4:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:50:01.89 ID:Y5kYTKfQo


「ちょっと、声が大きい! この噂って女子の間だけで流すことになってんの! 男子に回したやつのところには死神が来るんだって!」

「うは、日寄子ちゃんも死神信じてるんっすか!? てっきり馬鹿にすると思ってたっす! 唯吹と一緒っすねー」
以下略



5:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:50:29.52 ID:Y5kYTKfQo

 西園寺さんは、ときどき(というかいつも)私のことを”ゲロ豚”と呼んで罵ります。初めは、ああ、やっぱりここにも私をイジメる人がいたんだ、と思いましたが、それは違いました。

 西園寺さんはちょっと言葉がキツイだけで、とても優しい人です。私がお財布を忘れてしまった時、飲み物を買ってくれました。私が転びそうになった時、とっさに手を掴んでくれました。私が、自分の過去を三人に話した時……真っ先に涙を流してくれました。自分のことのように怒ってくれました。

以下略



6:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:50:58.01 ID:Y5kYTKfQo


「ちょっと、罪木! あんた聞いてんの?」

 気がつくと、西園寺さんのお顔が私の目の前にありました。他の二人もこちらを見ています。どうやら少し考え込みすぎてしまったみたいです。
以下略



7:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:51:27.25 ID:Y5kYTKfQo


「それで、なんのお話でしたっけ?」

「だから、死神の噂! そいつはね、誰かが人生で最も美しくなる瞬間に現れて、それ以上醜くなる前に殺すんだってさ! 最も、あんたはこれ以上醜くなりようがないけど」
以下略



8:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/05(木) 18:54:31.93 ID:f3OhzOsHo
いんらんアイランドの人か!


9:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:55:15.23 ID:Y5kYTKfQo


 そうして話題はどんどん他のことに流れていき、そしてふと澪田さんが「そういえばお腹すいたっすねー」と言ったのをきっかけに、私たちは帰路につきました。 けれど、私はその間中、ずっとさっきの「死神の噂」について考えていました。もし本当に死神というものがいるとしたら……その人は私を殺すのでしょうか?

 正直、私に「美しくなる瞬間」なんてもの自体が訪れる気はしないけれど……今が、きっと人生で一番幸せな時だ、という気はします。あの頃の地獄に戻るくらいなら、死神に殺されるのも悪くはないかな、なんて。そんなことを考えました。
以下略



10:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:56:04.23 ID:Y5kYTKfQo

 こんな私にも、一応(と言っては彼に失礼だが)恋人がいます。彼の名前は、日向創さん。私は日向さんと呼んでいます。

 彼がこのクラスに入ってきた経緯は少し特殊です。彼はもともと「予備学科」(これは才能を持たない生徒も入れる、言い方は悪いが二軍のような場所)の生徒として入学しました。

以下略



11:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:56:33.95 ID:Y5kYTKfQo


 私たちが付き合い始めたきっかけは、日向さんからの告白でした。彼は、初めて私に「好きだ」と言ってくれた人でした。

 その時のことは、未だにはっきりと覚えています。むしろ、少しでも忘れることなんて考えられません。誰もいない教室で、彼はどこか照れくさそうに
以下略



12:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:57:08.53 ID:Y5kYTKfQo

 後に聞いた所によると、彼が私を好きになったのは、彼が体育の授業で怪我をした時、私が治療したことがきっかけだったそうです。

 その時はまだ、予備学科から編入してきたばかりの日向さんはクラスに馴染みきっていなくて。どこか私たちに遠慮しているようでした。彼は

以下略



13:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:57:38.05 ID:Y5kYTKfQo

 超高校級の保険委員として、私たちのような高校生の時期に精神が不安定になりやすいことなんて、知識の上では百も承知です。特に、私のような生い立ちの人間は。

 でも、”超高校級の保険委員”なんていってもやっぱり私は高校生で、わかっていても何かに縋らなくちゃ生きていけないのです。私がほしいものは結局、私の全てを受け入れてくれる人で、でも普通の高校生である日向さんにそんなことを言っても重たい女だと思われるだけだ、というのがわかってしまうのです。

以下略



14:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:58:21.86 ID:Y5kYTKfQo

 最近、日向さんは少し様子が変です。何かを悩んでいるようにも見えました。それが特に顕著なのは、「才能研究」の授業の時間です。私たち”超高校級”の本科生は、普通の高校生としての授業の他に自分の才能を高めるための時間が用意されています。それが「才能研究」です。

 私は、もっぱら生物室で医学書を読んだり、保健室で実際に包帯を巻く練習をしてみたり……他の生徒たちも特に誰かに教わるということもなく、好き勝手なことをしているようでした。

以下略



15:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/05(木) 18:58:41.69 ID:C1/yGTWC0
期待しています
罪木崩しから見てます



16:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:58:49.42 ID:Y5kYTKfQo
 

 日向さんは私たちとの交流からなにかを吸収するために本科に来た関係上、才能研究の時間はもっぱら他の誰かと一緒に過ごすのが常でした。様々な才能に触れたほうがいい、ということで、いろんな人の後を日替わりでついてまわっていました。

 と言っても、それは私たちが付き合い始める前の話です。付き合いだしてからは、なんだかんだと理由をつけては、半分以上の時間を私に充ててくれていました。けれど、最近は。
以下略



17:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 18:59:34.49 ID:Y5kYTKfQo


「日向さん……また、七海さんと一緒なんでしょうか」

 最近は、全くといっていいほど、私と一緒に来てくれません。とはいえ、それは私だけが避けられているというわけではなく。一人をのぞいて、皆がそうなのでした。
以下略



18:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 19:00:03.23 ID:Y5kYTKfQo


 ――その日、私と日向さんは学校の屋上で二人、星空を見ていました。この学校は、一般的な高校とはかなり違います。研究機関としての一面もあり、泊まり込みで実験や制作を行う人も少なくありません。だから、宿泊設備もちゃんとあるのです。

 少なくとも私は希望ヶ峰学園からの奨学金で借りた安アパートに住んでいるので、家に帰ろうが学校に泊まろうが大した違いはないのでした。
以下略



19:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 19:07:55.85 ID:oFcjikJTo

 そして、今、こうしてその希望ヶ峰学園に居られることを幸せに思う、と彼は話を締めくくりました。けれど、その横顔はどこか悲しげで。だから、私は思い切って聞いてみたんです。

「そのぅ……日向さんは、どうして希望ヶ峰学園に入りたかったんですか?」

以下略



20:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 19:08:34.49 ID:oFcjikJTo

「でも、もっと高い位置から見れば、違う景色が見られるかもしれない。才能さえあれば、人生は違って見えるかもしれない。そう思ったんだ」

 そう言ったときの彼の顔は、いつもの優しい表情とは違って。私を拒み、否定し、疎ましがっているような冷たいものでした。

以下略



21:1 ◆tA781uCnfc[saga]
2013/09/05(木) 19:09:05.40 ID:oFcjikJTo


 西園寺さんが「死神」の噂を教えてくれた、つぎの日。私がいつものように保健委員の仕事を終えて、教室に日向さんを迎えに行くと、そこに彼の姿はありませんでした。

 いつもならば彼は授業が終わったあと、私の仕事が終わるまで教室で時間を潰して待ってくれているのに。私は浮かんでくる嫌な考えを振り払うように、彼を探しに走りだしました。
以下略



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