過去ログ - 【モバマス】「まゆ、お前は夢を見せる装置であればいい」
1- 20
10:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/12(木) 20:47:41.38 ID:MAqM1HVe0
 打ち合わせが終わったのは、もう日が落ちきった頃です。

 蘭子ちゃんに合わせる顔がありません。

 連絡もなしに何時間も待たせて、きっと怒っています。

 もう、帰ってしまっているかもしれません

 今頃、妹と弟は、おなかを空かせて、まゆの帰りを待っている……。

 着信が何件も入っていたけれど、怖くて掛け直せず、電車を乗り継いでいきます。

 息を切らせて田舎道を走ると、ようやく、一軒家が見えてきました。

 家の電気は消えていたけれど、豆粒ほどに小さな、不審な光が見えます。

 煙草をふかす、スーツ姿の若い男性が、縁側に座っていました。

 悲鳴を上げかけ、けれど彼の膝を枕とし、眠る蘭子ちゃんを見て口をつぐみます。

 蘭子ちゃんは暑そうな黒衣を身にまとい、傍らの彼に気を許しきったように脱力しています。

 彼はまゆに気づいたみたいで、懐から取り出した携帯用の灰皿に煙草を入れました。

「初めまして、佐久間まゆさん。俺は、こういう……すみません、立ち上がれなくて」

 名刺を取り出した彼が、膝上の蘭子ちゃんを思い出したみたいに、苦笑します。

 まゆの方から、彼の傍まで歩み寄ります。

 暗がりで見えにくかったけれど、ぱっと見の印象よりもずっと若い。

「芸能プロダクションの、プロデューサーさん、ですか」

 受け取った名刺を、携帯の光で照らします。

「はい。蘭子を迎えに来たんですけど、あなたを待つと言って聞かなくて。結局、この有様です」

 ちっとも迷惑には思ってなさそうな、優しげな瞳で、蘭子ちゃんの髪をそっとなでていました。

「差し出がましいことを言いますけど、女の子の前で煙草というのは、嫌われますよ」

「お恥ずかしい。長く禁煙していたんですが、最近吸わずにはいられない出来事がありまして」

「女性絡みですか?」

「担当アイドルの去就についてですので、まあ、あながち間違ってはいません」

「それも、別の女の子の前で言うのは厳禁ですよ。蘭子ちゃんがおねむで、助かりましたねぇ」

 冗談めかして微笑むと、彼もまた微笑み返してくれます。

「読者モデル時代から知っていますが、佐久間さんの笑顔は、やはり魅力的ですね」

 ひどくまっすぐな賞賛に、まゆの心が高鳴って、だけれどすぐにしぼんでしまいます。

 まゆの心の、弱い部分から這い出した、もう一人の佐久間まゆが、にやにやと笑っていて。

 褒められてるのはお前じゃないんだと、幻のくせに主張しているんです。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
33Res/36.71 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice