過去ログ - 日向「強くてニューゲーム」
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981:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/14(月) 20:24:19.13 ID:e6Uk7Fse0
もちろん殺人なんてしたくない、けれど、拒否すれば雪美はきっと引き金を絞る――それはほんの一滴の情けもなく、あっさりと。
そんなこと、絶対に、させてたまるか。

僕にとって、季莉の命は、何よりも重いんだ…!!

「逃がすかぁぁぁッ!!」

錬の足は速くない上に持久力もない。
普通の状況で追いかけっこをすれば、バドミントン部で鍛えている真子に瞬発力も持久力も決して敵わないだろう。
しかし、真子の震えた足は自身の逃亡を困難にし、錬との距離は詰まっていった。

「いやっ、いやぁ…きゃあッ!!!」

真子が地面から出っ張っていた石に躓き、スライディングをするように倒れた。
それでも少しでも錬との距離を取ろうともがき、何とか立ち上がろうとしていたが、ついに錬は真子に追い付き、真子の小さな背中に馬乗りになった。

「やだ、やだぁ…松栄くん、お願い、助けて、許してッ!!」

真子のサイドポニーがぶんぶんと揺れる。
季莉とは違う、まるで小学生のような童顔を返り血と涙と鼻水で汚し、真子は泣き叫んで錬に命を請う――錬の心臓が、吐きそうになる程に酷く痛む。
それでも、やめるわけにはいかない。
季莉を失わないためには、やるしかない。

「ご…ごめん……山本さん…ッ!!」

錬は、金槌を振り下ろした。
真子の悲鳴が上がる。
ごっという鈍い音が腕を通して伝わる。

「ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…ッ!!」

二度、三度と、錬は金槌を振り下ろした。
真子の悲鳴が、耳に刺さる。
めきっという音が耳に入る――真子の頭蓋骨が砕けた音だと認識する。
それでも、錬はやめない。

「山本さん、ごめんなさい、ごめんなさい…ッ!!」

真子の顔を、赤い液体が伝う。
いつの間にか、耳からも出血している。
真子の頭部はこんなに歪な形だっただろうか。
金槌は、こんな色だっただろうか。
それでも、錬はやめない。

もう、何度目になったのか、わからない。
振り上げた手を、何者かが掴んだ。
錬がゆっくりと顔を上げると、そこには、眉間に皺を寄せた賢吾がいた。

「錬、もういい…もう、やめてやれ」

賢吾の唸るような声に、錬は我に返り、自分の下に視線を向け――呻いた。
真子の顔面は真っ赤に染まり、地面にまでその血は広がっていた。
頭部は生前の形など見る影もない程にぼこぼこにへしゃげていた。
いつから真子が声を上げなくなったのか、記憶にない。
いつから真子の抵抗する力がなくなったのかも、記憶にない。真子がいつ息絶えたのか、わからない。ただ、確実に、真子が息絶えてもなお、錬は真子を殴り続けていた。

「あ……あぁ……ああああああぁぁぁあッ!!」

錬は血塗れになった金槌を手離し、頭を抱えて叫んだ。ついに、人を殺した。泣きながら何度も命乞いをしてきた、小さな女の子を。それも、他の2人よりも、残虐に、執拗に。

「錬ッ!!」

錬の耳に、愛しい女の子の声が飛び込んできた。錬が顔を上げると同時に、季莉が飛び付いてきて、錬の華奢な身体ではその力を受け止めきれず、2人は地面に倒れた。季莉は錬に縋り付き、その薄い胸板に顔を押し付け、泣いていた。何を思い涙を流しているのかはわからないし、今は、考えたくなかった。季莉がここにいて、生きている――それが一番だった。涙で潤む視界に、雪美の顔が入り込んだ。やはり、変わりない笑顔を浮かべて。

「やっぱり、あたしの信じたことは間違ってなかったわ。 季莉ちゃんと松栄くんのお互いを思い遣る気持ちは、本物ね。 ふふっ、あたしが季莉ちゃんや松栄くんを[ピーーー]はずがないじゃない、冗談よ? 怖がらせたらなら、ごめんなさいね…もうやらないわ。 どうかこれからもお互いを思い合って、一緒に、生き抜きましょう? 賢吾、ここを離れて、どこかで少し休みましょう…どこがいいかしら」

雪美は錬と季莉に背を向け、地図を広げた賢吾と打ち合わせをしていた。

「錬…あたし…やる……生き残ってやる…っ」

季莉は顔を上げ、錬をじっと見つめた。
その目にはまだ涙が浮かんでいたけれど、目力の強さはいつもの季莉そのものだ。

「もう、後には退けない… あたし、やっぱり、死にたくないよ… それに…錬がいなくなるかもって思ったら…怖かった…っ」


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