1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/10/12(土) 00:35:49.31 ID:F856af2G0
それは柔らかく、しかし重い砂だった。一歩歩くごとに足へとまとわりつき、その足はじわじわと沈み込んでいく。そのままじっとしていると、体ごとどこまでも沈んでいくように感じられる。沈んでしまう前に後ろの足を砂から引きずり上げ、前へと踏み出す。
その足もじきに砂にめり込んでいき、また次の足を踏み出す。ただその果てしない繰り返しだった。舌にはざらざらとした砂の感触がする。だが、それを吐き出す唾液すらもう残っていない 。後頭部には鈍い痛みが続いていて、体には刺すような痛みが続き、意識を麻痺させていく。いや、もしかしたら元より朦朧としていた意識を、その痛みがどうにか覚醒させていたのかもしれない 。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/10/12(土) 00:38:02.02 ID:F856af2G0
此処はこの世の果て。この世界の何処でもないここでは、砂漠以外のものはほとんど視界に入らない。そこでは、大洋の中の船のように自分が移動している感覚が消えていく。自分は本当に進んでいるのか、それとも同じ場所で繰り返し足踏みしているのか。しかし、時折、砂以外のものが視界に入る事がある。それは、真っ赤に染まった砂漠迷彩を施された軍服らしきものと、それに包まれた、少し前までは人間だったものの塊だった。砂に埋れつつある人間たちの骸は、敵か、味方か、それすらあったのかも分からなくなっていた。どちらがどちらなのか区別がつかない。等しくこの大自然に埋葬されていくかのようだ。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/10/12(土) 00:39:22.06 ID:F856af2G0
さっきからずっと、耳鳴りのような遠い砂嵐の音が聞こえている。彼は時折、どうして自分がここを歩いているのか思い出せない事があった。それでも、体は何処かへと向かい、規則的な繰り返しを止めようとしない。それは、何か強い力が彼を引っ立てているかのようだった。
自分は何処へと向かっているのか、それは彼にも分からない。
彼、織斑一夏は、この果てしなく続く砂漠をたった一人で、もう何時間も歩き続けていた。さっきから聞こえていた砂嵐の音が、徐々に、何かもっと別の、高いトーンの音に変わっていくように感じる。それとも、やはりただの耳鳴りか、幻聴だったのかもしれない 。だがそれは、何か人の声、女性の声ようにすら感じられるようになってきた。
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/10/12(土) 00:40:32.46 ID:F856af2G0
一夏はふと、その声に呼ばれたかのように、ゆっくりと振り向く。そして、そこには信じられないような風景が広がっていた。数え切れないほどの、光り輝くチョウが空を埋め尽くし、絡み合うように舞っている。もちろん、この砂漠にチョウなどいるはずがない。だが不思議な事に、一夏はこれを幻覚だとは感じなかった。むしろ、今まで歩いてきたこの砂漠よりも、このチョウの方がずっと現実のように感じられ、それを見ている自分の意識も、ずっと覚醒しているようだった。そして、何か懐かしいような、安らぐような、奇妙な感覚に囚われた。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sagsaga]
2013/10/12(土) 00:41:35.74 ID:Xu+K5Qhn0
一夏改編の人?
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