過去ログ - 許嫁「私、昨日、彼とセックスしました」
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2013/10/25(金) 08:26:53.95 ID:xjhVtzry0
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「私、昨日、彼とセックスしました」
声を震わせながらも、彼女はまっすぐこちらを見る。
いつかこの日が来るだろうとは思っていたので、驚きはしない。
ただ、わざわざ自分の口で伝えに来た、その律儀さにはつい苦笑してしまう。
僕の答えなど――僕の心など、6年前から決まっていたのに。
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2013/10/25(金) 08:41:56.73 ID:xjhVtzry0
注意:長いです。エロ無し。
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2013/10/25(金) 08:42:39.92 ID:xjhVtzry0
そういう次第で、僕はまさに愚か者の誹りを免れない有り様だったのだが、相手たる彼女は様相が大きく異なっていた。
まあ、当然のことである。
当時、彼女の父親は経営上の難所に直面しており、その打開策として、あろうことか娘を最大の取引先に売り払ったのだから。
そんな事情があるとは露とも知らぬ僕は、初顔合わせの場で表情をこわばらせる彼女を、愚かにも不思議に思ったものである。
彼女は目鼻立ちのくっきりとした美しい容貌をしていたが、面を伏せ、ひたすらに口をつぐんでいた。
以下略
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2013/10/25(金) 08:43:24.83 ID:xjhVtzry0
困ったのは僕である。
明らかに照れではない理由で黙ったままの同年代の少女を前に、一体何をどうしろというのか。
うつむく彼女をよそに、僕はない知恵を絞ることにした。
もしかすると、自分はともかく、目の前の女の子はこんな押し付けられた縁談は不服なのかもしれない。
確かに、恋愛感情など微塵も抱いていない相手との婚姻など、絶望以外の何物でもないことは容易に察せられた。
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2013/10/25(金) 08:45:17.81 ID:xjhVtzry0
この事実はいかんともし難いとしても、ならばどうするのか。
僕が上等な服を着られて、上等な食事にありつけて、上等な家に住めるのは、全てこの家に生まれたからである。
この縁談を破棄したければ、それをかなぐり捨てる覚悟が必要で、それが余りに惜しいことだというのは、子供の浅知恵でもわかった。
さらに考える。
しばらく考えて、ここは父母の範に則るのが最善であると結論した。
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2013/10/25(金) 08:45:49.85 ID:xjhVtzry0
――きみも大変だね、こんなことになって。
無言は想定内なので、気にせず続ける。
――悪いけど、ぼくもこの家の世話を受ける身で、それをなくしたくないから、この話をなかったことにするつもりはないよ。それに、破談にしたら、いろんな人に迷惑がかかるんだろうし。
――でも、心配しないでほしい。
その時初めて、彼女は顔を上げて僕を見た。
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2013/10/25(金) 08:46:16.89 ID:xjhVtzry0
そう言うと、彼女は何故か信じられないものを見るような目で僕を見た。
むしろ感謝されるものと思っていたので面食らったが、感謝されることは目的にはない。
あるいは僕がふしだらな人間だと嫌悪感を抱いたのかもしれないと思い至ったが、それならそれで別に構わなかった。
特に何が変わるわけでもないのだから。
これが、僕と彼女のファーストコンタクトだった。
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2013/10/25(金) 08:47:00.75 ID:xjhVtzry0
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それからしばらくして、彼女が僕の通う小学校に転入してきた。
間違いなく親連中の差金であろう。
その手の早さは見習わなければならないのかもしれないが、わざわざクラスを同じにする必要もあるまいに、いらぬ横車を押してくれたものである。
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2013/10/25(金) 08:47:32.18 ID:xjhVtzry0
彼女はそんな僕とは全く対照的だった。
転入直後から彼女の周りには人が絶えず、女子は彼女を自分のグループに誘い込もうと躍起になり、男子はなんとかして彼女の歓心を買おうと必死だった。
なるほど、人が集まるとはどういうことか、その実例がそこにあった。
我が親愛なる優秀な兄たちならこの光景を我がものとしていて、今もそうあるのだろうが、あいにく僕にそんなものは与えられなかった。
自分にないものを、彼女たちは持っている。生まれ住み、見ている世界が違う。
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2013/10/25(金) 08:48:27.74 ID:xjhVtzry0
授業中以外は誰とも滅多に話さず、授業が終わればさっさと家に帰る。
僕のひそやかな学校生活が何ら変わらず維持されたのは僥倖であったろう。
なぜなら、大人はやはり考えることが違う、なんと彼らは、許嫁を無理強いした彼女を我が家に頻繁に来訪させたからである。
僕とは違って彼女には引き留めようとする人が多いから、一緒に帰るような事態は図らずも回避された。
それは彼女の社会的地位を貶めないために役に立ったが、放課後、わざわざ帰路を同じくせず僕の家に来るとなると面倒なことになる。
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2013/10/25(金) 08:48:56.41 ID:xjhVtzry0
家での生活も、大した変化はなかった。
放課後、彼女が家に寄るといっても、僕に彼女をもてなしたりなどできないのだから。
僕は専ら読書するか、勉強するか、昼寝するかしていたし、彼女もなにか暇をつぶすものを用意するよう申し渡していた。
彼女が何をするかは努めて関知しないようにした。窮屈な思いをさせることもあるまい。
最初こそ、
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2013/10/25(金) 08:49:22.89 ID:xjhVtzry0
ただ、彼女が僕の家に寄っていることが明るみになり、僕が吊るしあげられた日だけは別だった。
彼女は自分のせいで僕の立場が悪くなったと自分を責めているようだったので、気にする必要はないと言っておいた。
それで話が終わりだと思っていたら、その途端、彼女は眉を立てて詰問するような口調で問うてきた。
「どうして本当のことを言わなかったんですか」
何故怒っているのか皆目見当がつかなかったので、嘘はついてない、と答えて様子を見る。
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2013/10/25(金) 08:49:52.26 ID:xjhVtzry0
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中学生に上がると、親からのプレッシャーが次第に強くなっていった。
つまるところ、お家の安定のために、子弟間の横のつながりを作っておけということらしかった。
他者との関係をなるたけ希薄にしようとする性分が邪魔をしたが、僕が逃げれば、そのしわ寄せが彼女に向かう。
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2013/10/25(金) 08:50:21.72 ID:xjhVtzry0
たまたま参加した集まりでの事だった。
集まりの中でも中心的な男の行きつけのホテルの店らしいが、どこか店内は薄暗い。
そこでは未成年にもかかわらず、アルコール類が供されているようだった。
僕は固辞したし、彼女にも飲ませなかったが、皆はまるで気にせずに飲む。
参加するべきではなかったな、と帰る算段を考えていると、隣りにどっかと誰かが座った。
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2013/10/25(金) 08:50:53.22 ID:xjhVtzry0
「そういえばさぁ、俺、ずっとお前の横に立ってた女の子、ああ、今も座ってんな、気になってたんだよね」
「お前の彼女かぁ? いやいやぁ、お前にゃもったいねぇだろ。ギャハハ」
「俺にちょっと貸せよ。いいだろ?」
「貸すって、そりゃそのままの意味だよ。もしかすると寝取っちゃうかもだけどぉ、そんときゃ勘弁な!」
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2013/10/25(金) 08:51:27.52 ID:xjhVtzry0
ホテルから通りに出る。
外の冷たい風が肌を差して、自分が彼女の手を掴んでしまっているのを思い出した。
慌てて手を離す。
失敗したな、と思った。
僕が不快に思ったからといって、彼女も不快に思ったとは限らない。
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2013/10/25(金) 08:51:58.81 ID:xjhVtzry0
それ以来僕は、できる限り彼女の行動を制限しないように取り計らうことを心に決めた。
思えば、例の席で酒を飲ませなかったのも余計な世話だったかもしれなかった。
二度と同じ轍を踏んではならない。
彼女の望まぬ婚姻の片棒を担いだ、これは僕の義務だった。
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2013/10/25(金) 08:53:04.87 ID:xjhVtzry0
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「今日、告白されました。……引き受けようと、思います」
彼女がそう言ったのは、僕と彼女が高校生になって、しばらく経った日のことだった。
家庭教師や日々の弛まぬ勉学のおかげか、僕はなんとか兄たちの通っていた高校に滑り込むことができた。よく勉強のできた彼女については言わずもがなである。
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2013/10/25(金) 08:53:44.25 ID:xjhVtzry0
実際、彼女はよくモテる。異性から愛の告白を受けるのはしょっちゅうだった。
しかし、彼女がそれを受けたことは一度もないようだった。
あるいは、僕に対して気兼ねしているのだろうか。
彼女が僕と同じ小学校に通い出してすぐ、相談を受けたことがあった。
「同じクラスの男の子に告白されてしまいました。どうすればいいですか?」
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2013/10/25(金) 08:54:24.32 ID:xjhVtzry0
それでも告白を引き受けようとしなかった彼女に、やっと恋人ができるというのである。
それはきっと、とても良いことのはずだった。
人並みの幸せはともかく、僕という負債を抱えてなお、トータルではプラスになってくれればいい。
そう願って、僕は彼女を祝福した。
しかし彼女は、どこか傷ついたような、苦々しげな顔で、そうですか、と言った。
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2013/10/25(金) 08:55:07.91 ID:xjhVtzry0
それから一週間後、彼女は恋人とキスしたことを告げ、さらにそのひと月後、冒頭のごとく、恋人と性交に及んだと言ってよこしたのである。
キスはよいが、ことが性交渉となると、はいそうですか、では収められまい。
僕には、彼女に対して一つだけ、注意をしておかなければなければならないことがあった。
僕は、避妊をしたかを聞いた。
彼女はひどく戸惑っていたが、それは僕に対して赤裸々に語りたい類いのことではないからだろう。
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