296: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:06:31.68 ID:cp6WeGbSo
しかし凛は、鋭い視線を変えない。
「ちひろさん、私ね、その機関―カラクリ―を知りたいんだ」
「――……から、くり?」
297: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:07:15.19 ID:cp6WeGbSo
慌てる様子のちひろと対照的に、凛は首をゆっくり横に振る。美しい黒髪が、若干のディレイを伴って揺れた。
国会図書館で複写した過去のタレント銘鑑。
そのコピー紙を鞄から取り出して、身体の左横にあるコンソールへ、ぽん、と放った。
298: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:08:16.46 ID:cp6WeGbSo
凛はそのまま畳み掛けた。
「私の国民識別IDの内部に、H070810っていうデータも埋め込まれてた。これ、平成7年……つまり1995年8月10日って意味でしょ?」
左手で、ひらひらと、IDカードを揺らす。
299: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:09:46.48 ID:cp6WeGbSo
静寂が、二人を包む。
眼力鋭くちひろを見る凛。
しばしの沈黙ののち、ちひろがゆっくりと口を動かした。
300: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:10:45.37 ID:cp6WeGbSo
「きっかけなら色々あるよ。一週間ほどプライベートの記憶がなかったり、買った覚えのないお酒があったり、ポータルの映像にデジャヴや妙なコメントが書かれていたり」
それらは、個々ではほとんど気にかけず流してしまうであろう些細なものだが――
「数々の違和が重合して、大きな疑念になったの。その中でも一番の要因は、加蓮と私の記憶に齟齬が出たことかな」
301: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:11:21.47 ID:cp6WeGbSo
あの日は誤ってアルコールを飲んでしまって、その対処のせいで出社が予定より遅れた。
つまり、あのとき、凛がいつも通りに、スケジュール通りに出社していたら、加蓮と鉢合わせすることはなかったはずだ。
そのまま、加蓮は凛と会話することなくNEURONetに接続し、記憶の整理が行なわれていたことだろう。
302: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:12:23.15 ID:cp6WeGbSo
ちひろは、ゆっくりと、瞼を開けた。
「――……勘の良い子はいけませんねえ」
303: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:14:25.32 ID:cp6WeGbSo
「――結論から云いましょう、凛ちゃん……いえ、ワ号。あなたは渋谷凛のクローンです」
オリジナルはあなたの云う通り1995年8月10日生まれですよ、とクイズの正解者を讃えるような拍手を付け加えた。
「――あなたは、2041年に偶像の役目を終え苗床となった別のクローン、ヘ号から、2043年に産み落とされたのです。体齢15まで成長させてからは人工冬眠状態にしてね」
304: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:17:14.50 ID:cp6WeGbSo
そして、別の話題を振る。
「――凛ちゃん、アルベルト・アインシュタインのことは知っていますよね?」
「そ、そりゃ勿論……知らない人なんていないはずだよ」
305: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:19:20.14 ID:cp6WeGbSo
「――彼が現代に生きていれば、その脳を数値化―サブリメーション―して、身体もクローンで維持して行くことでしょう。そうしなければ、人類にとって大きな損失です」
「だ、だからってそれが私の身に何の関係が――」
凛が云い終わらないうちに、ちひろは「それと同じことなんですよ」と遮った。
306: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:20:30.52 ID:cp6WeGbSo
「――あなたがデジャヴを感じた映像の屍体は、こないだ投身したヲ号のものです。画が市井に出回るとは根回し不足でしたね。さらにそれを凛ちゃんに見られるとは」
ちひろは腕を組んで、はぁ、と嘆息した。
「――あの子は、偶像としては、ヘ号以来の優秀株だったので、苗床にする予定でした。でも、死んじゃったので仕方ありません」
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