1: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 00:54:26.24 ID:lp9qmKb80
「出てけ、ゴミ!」と殴られて、僕は冬風の吹く夜空の元に放り出された。 
  
 もうこの家には帰れないし仲のいい友達の家を渡り歩こう、と思ったところで僕には友達がいなかったことを思い出した。 
  
 街頭に照らされた公園のベンチに座り込んで今日はここで夜を明かそうか、と何か布団の代わりになるような物を捜して辺りを見回すと。 
  
 「捨てる神あればー、拾う神ありー」 
  
 公園の隅に長い黒髪が揺れながら、不法投棄されている粗大ゴミの山を漁りていた。 
  
 僕は心細かったのか、普段なら目もくれないようなその存在に興味を持ってしまった。 
 
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2: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:02:15.06 ID:lp9qmKb80
 何してるんですか、と僕が声をかけたのかもしれない。それとも僕が近づいた足音に気付いたのかもしれない。 
  
 なんにせよその人はゴミを漁る手を止めて振り返った。 
  
 「何だお前、子供がこんな時間に出歩いてちゃあ駄目だろう」 
3: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:06:44.79 ID:lp9qmKb80
 電子レンジを持たされておねえさんに連れて行かれた先は、近所でも有名なガラクタ屋敷だった。 
  
 なるほど、ここの人だったのか。 
  
 大きめの門を潜った先は、まるでアンティークショップのようだった。 
4: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:13:53.88 ID:lp9qmKb80
 家の中も庭と同じく懐かしい雰囲気がする物ばかりだった。 
  
 というか物が多すぎて人間が活動するスペースはほんの少ししか残っていなかった。 
  
 「そいつはそこに置いといてくれ」 
5: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:19:06.23 ID:lp9qmKb80
 次の日の昼下がり、おねえさんは僕を隣町の商店街に連れて行った。 
  
 「ここは作られた懐かしさだけど、それでもちょっと落ち着くんだ」 
  
 ボール電球形のLEDから発せられる淡いオレンジ色の光に照らされた真新しいレンガ舗道を眺め、おねえさんは目を細める。 
6: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:25:42.79 ID:lp9qmKb80
 同じ景色が続いた後、レンガの上に佇む古いストーブが目に入った。小学校の頃、冬になると教室に現れたあいつだ。 
  
 ストーブの隣のシャッターは開いていて、その奥に置かれているテーブルを挟んで二人の男の人が向かい合って座っていた。 
  
 「ギョクさん、久しぶり」 
7: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:30:26.82 ID:lp9qmKb80
 「ほらオウさん、ケイちゃん来たよ」 
  
 ギョクさんより少し体格のいいその人はオウさんというらしい。 
  
 「ん? 何だお前、また来たのか」 
8: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:35:08.55 ID:lp9qmKb80
 「この子は?」 
  
 オウさんの王に王手をかけてギョクさんが僕を指差す。 
  
 「拾ったんだ。捨てられたって言ってたから」 
9: ◆4z2E.PK0ZYHD[saga]
2014/03/09(日) 01:40:25.22 ID:lp9qmKb80
 「おいケイ、こいつはなんて名前なんだ」 
  
 「あ、まだ付けてないや。うーん」 
  
 そういえばそうだ。捨てられたんだから、今までの名前はもう使えない。今の僕は名無しだった。 
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