435:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/08/23(土) 06:20:59.80 ID:7vd1UyS70
「萩岡くん。」
ふいに話しかけられて、ドキッとする。なぜなら宗信のすぐ隣の通路には、先ほどまで寝ていたはずの晴海が立っていたのだ。もしや聞かれた?と内心かなり、いやそうとう、心臓が破裂するくらい焦っているのがわかる。
「な、なに?」
努めていつも通りに返そうとするが、やはり動揺は隠せていなかった。その証拠に、貞治が含み笑いするのがわかる。
「実は、飴持ってきてるんだ。本当はいけないんだけどさ。よかったら食べない?いっぱいあるし。」
そう言って、その小さな手に握られていた飴を一つ差し出す。コンビニとかで市販されている、フルーツの味が何種類か入っているものだとわかった。宗信自身もよく食べている。
「あ、ありがとう。」
そう言って受け取る。よく食べているはずなのに、なぜかこの世に一つしかない、貴重な宝石のような感覚がした。少なくとも、すぐに封を開けて、ポイッと口に放り込む気にはなれなかった。
「白凪くんや乙原くんもどうぞ。」
宗信と同じように、浩介や貞治にも袋から取り出して一つずつ差し出す。
――なんだ、俺のために持ってきたんじゃないのか…
少々拍子抜けしてしまった。勝手に期待したくせに、勝手に軽い失望感を味わってしまう。
「晴海、あんまり動くと危ないよ。」
そう声をかけていたのは、彼女の友人の一人である矢島楓(女子17番)であった。大きめの眼鏡に、ショートカットがよく似合う女の子。見た目通りというべきか、成績は大変よく、クラスでも上位に入るほどであった。まぁ浩介にしたって成績は楓と同じくらいいいのだけれども。
――あ、浩介…
ふと気になって、浩介の方に顔を向ける。案の定、先ほどとはまったく異なる表情。なんだか呆けたような、驚いたけどどうしていいのかわからない、そんな表情をしていた。これには宗信も思わず笑いそうになる。
――貞治の言う通りかもしれないな。
「大丈夫だよ。今あんまり揺れてないし。楓こそ、動いていいの?車酔いしちゃうよ。」
「酔い止め飲んだし、そんなに時間かからないでしょ?大したことないよ。」
そんな宗信や浩介の心中を知ってか知らずか、二人はいつも通りの会話を繰り広げる。そのやり取りも、またなんだか別世界のようであった。そばにいるのだけれども、どこか違う世界のような感覚。やすやすとは踏み込めない、手の届かない領域。
「あ、邪魔してごめんね。じゃ!」
そう一言残して晴海は後ろの座席の方へと立ち去っていった。正直なところ、もっと会話がしたかった。はっきり言ってしまうと、「いくらでも邪魔してくれ、いや邪魔じゃないからさ。」と言いたかった。
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