224: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/04/29(火) 17:18:10.57 ID:5HLYTs2y0
――――――――――――――――――――――
家の電話が止まる。止まったらしい。わたしはそれをベッドにもぐりながら聞いていた。
家族はみんな仕事でいない。だから、きっと誰かが出たのではなくて、切ったのだろう。
相手はきっとオフ会の人たちだ。初心者のわたしにもよくしてくれた、人たち。
「社会復帰の、一歩、だ、って、言ってたの、に」
わかる。それは、わかる。言い出したのはわたしだ。でもだめなのだ。顔も見えず、声も聞こえないネットならまだしも、実際に会うことを考えてしまうと――だめなのだ。
動悸が早まる。手のひらに汗がいっぱい湧き出てきて、考えなくてもいいことまで考えすぎてしまって、パニックだ。パンクだ。
嫌われないかなとか言い過ぎたかなとか、自分の話をしすぎてないかなとかつまらなくないかなとか、そういうことにばかり気を取られて、注意を向けてしまって、最早会話どころじゃない。
「!」
わたしは思わずびくりと震えた。ぴんぽんが……チャイムが鳴ったのだ。
宅配便だろうか? どのみちわたしは出られないのだから、うるさいだけだ。
それなのに。
ぴんぽんぴんぽんぴんぽん。
あぁ、もう、うるさい!
部屋のカーテンを開けてこっそり入り口を窺った。門扉を開いて、誰かが入ってくる。
一瞬だけ泥棒かと思ったけれど、違う。見たことのない顔だけど、見たことのある面影を残していた。
忘れもしない。古屋のおにーちゃんだ。
「どう、して?」
数年間会わずじまいだった――わたしが会うのを拒否していた彼が、どうして急にこの家へ?
という疑問はあったけれど、でも、胸に去来する確かなものがあった。わたしは弱った足腰をなんとか駆使して、一階まで下り、覗き穴越しで顔を見る。
結局、出ることはできなかった。
――――――――――――――――――――――――――
235Res/273.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。