過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 23:00:30.24 ID:dbLyof+Po


「私も翠さんも、例え欠けていようとも努力で補い進んでいく覚悟はあるわ。ただ、彼女は少し難儀な覚悟みたい。……言い方が悪いのはわかってるわ、ごめんなさい」
 千秋はそう答えると、小さく謝罪してからそのまま踵を返して俺達に背を向けて去ってしまった。

 謝罪したのは恐らく彼女から発せられた発言だろう。すこし当たりがきついと感じる節はあるが他人を侮辱するような人間では決して無い。だからこその言葉だと思う。
 まるで言いたいことを言いたいだけ言って帰っていったように思えて、俺とちひろさんの二人で顔を恐る恐る合わせてしばし沈黙してしまった。

 彼女は何のためにここに来て、何を伝えたのか。
 何を思い、何を考え、俺に伝えたのか。

 そうしたことをぼんやりと頭のなかに浮かべると、瞬く間に数秒間が経ってしまう。
 そしてその数秒の間のあと、俺はポツリと呟いた。

「……行ってきてもいいですか?」
「行くって……さっき言った部屋に?」
 根拠は無いが断言できる。彼女の言ったことに嘘や欺瞞は存在しない。

 態度こそお世辞にも柔らかいとは言えないものの、それは千秋なりの葛藤の結果なのだと思う。
 先程の言葉……悔しいという思いが、それを表しているのだろう。
 同じユニットとして活動して知り合ってから、千秋は翠によくしてくれている。お互いがお互いを高め合うように過ごしている。

 もしかしたら、千秋は翠に過去の自分の影を映しているのかもしれない。
 以前の千秋を知っているからわかるのだが、当時の彼女はひたすら進むことだけを正しい姿だと考えて、それだけを信じて走っていた。
 それが色々な人との出会いを経て、休むこと、信じること、頼むこと…協力することなど、人と共に進むことが良いことだと理解してくれた。
 ならば、今の翠はどうか。彼女の目に写ったであろう翠はどうか。

 ――彼女の言葉が嘘偽り無いものであったとしたら。

「……そうですね。それがいいと思います」
 ちひろさんも俺の提案に賛同してくれた。彼女もまた千秋の言葉を信じたのである。
 不安定な言葉でも、信頼があるから信じられる。それがあるから身を任せて動けるのだ。

「ありがとうございます。行ってきます」
 彼女の言う通りなら翠はその部屋に居るはずだ。一体そこで何をしているのかはわからないが……良い知らせでは無いことは何となく察することができる。

 廊下は少し寒いだろうか、と掛けていた上着を羽織り、何も持たず事務所を後にした。




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