過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 23:28:37.21 ID:dbLyof+Po
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「ん? あの後ろ姿は……」
あの後、ぽつりぽつりと会話を交わしつつ表情を和らげてから部屋を退出し、事務所に戻るために廊下を歩いていると、遠く……エレベータの近くに、見慣れた黒髪の女性が立ってることに気づいた。
「千秋さん、でしょうか」
隣に居た翠が考える隙なく一人の女性の名を告げる。
俺もそう思う、と相槌を打って、歩みを続けた。
思い出す。
俺があの部屋に行くことができたのは、まさしく千秋の棘が生えたような言葉があったからだ。
彼女が夜事務所に来なければ、そして俺に伝えなければ、翠は何も得ることができず、そして何かを失っていた。
そういう意味では、彼女こそ翠を一番大事に想う人なのかもしれない。
だがそれにしたって、事務所を去った後、千秋はずっとここで俺たちが出てくるのを待っていたのだろうか。
「来てくれたのに……謝らないと」
翠が小さく、申し訳無さそうに呟く。
千秋の言葉が脳裏に映し出される。
結局、千秋があの時辛辣な言葉を吐いたのは発破をかける意味合いもあったが、それ以前に悔しさがあったのかもしれない。
今思えば、彼女の台詞にそれらしい意味が含まれていたような気がする。
しかし、それは時間をかければすぐに壊れる壁にすぎない。
ただ彼女は翠と知り合う時期が俺よりも遅かっただけのことだ、俺と千秋、共に翠に対する思いには寸分の違いもないのである。
「そうだな。謝って、それで千秋とも一緒に歩き出そう」
「はいっ」
いつの日か聞いたような、純朴な返事。
それを今再び聞くことが出来て本当に嬉しいと思う。
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