過去ログ - とある科学の合成合唱<カンタータ>
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5:偽りの希望  ◆wapTtVzPxk[sage saga]
2014/04/25(金) 21:22:46.17 ID:tU3kNuw60
  
  昔のことだ。二文字の名字と三文字の名前を持つ、一人の少年がいた。 
  
  周りより少しスキルが上なだけという彼の平和な自己認識は、ほんのささいな口喧嘩から崩れ去る。 
  
  突っかかってきた同年代の少年達が両耳を押さえて苦しんでいる。かけつけてきた教師も少年が口を開いた瞬間に泡を噴いて倒れた。次々と大人達が現れては少年が弁解する暇もなく倒れていった。 
  
  ただ怖かった。怖かったから助けを求めようとした。攻撃する気なんて無いのだと言いたかった。 
  
  混乱のあまり喚いた後で、彼は惨状に気付いた。まるで怪獣映画のような廃墟の街が出来上がっていた。そうして彼は気付いてしまう。 
  
  この声だ。たったの一言で人は死んでしまう。このまま訴え続ければ世界の滅びを目にすることになるだろうと。 
  
  人に『感情』を向けてはいけないのだ。彼は悟った。弁解しようなどと考えてはいけない。他人にどう思われようと、何とも思わない人間にならなければならない。そうすることでしかチカラの暴走から他人を救えない。 
  
  幼い子どもはこの時すでに間違えていた。他人の言を全く気にしない人間というのは、裏を返せば、他人がどうなろうと全く意に介さない人間ということだ。そんな間違いに気づかないまま、彼は自分の道を選んでしまう。 
  
  
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  かろうじて『滅び』を回避した彼はもう他人に興味を向けることは無かった。最低限の応答のみ発する装置。しかし歯車はそう簡単には止まらない。死んだように閉じてしまった貝は流されるままに一つの方法に辿り着く。 
  
  怪獣ではなく、神様になれば。 
  
  誰かを傷つけることなく、誰かに怯えられることなく、自分が居てもいい場所が作れるだろうか、と深く暗い水底から彼の心は夢見た。 
  
  その偽りの希望が、のちに多くの人を傷つけてしまうことにも気づかず。 
  
  
  
  
  
  
  
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