5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/05/05(月) 19:18:06.88 ID:wBxpcr1o0
その日の夜、伊織が私の部屋を訪れていた。
この部屋に伊織が入るのは久しぶりかも知れない。
いや、伊織と顔を合わせて話すこと自体が、久し振りだろう。
伊織がアイドルを始めてから、今まで少なかった対話する時間もさらに減っていた。
「お父様の部屋、変わらないわね」
娘の顔つきは、すっかり変わっていた。
強気な目線は変わらないが、そこにも少し余裕のような物が感じられるようになっていた。
「…伊織、お前はどうしたいんだ」
「…どうしたいって、どういうこと」
「アイドル、続けるのか」
「ええ、もちろん」
「お前は、アイドルになってどうしたいんだ」
「…私は」
「いずれ、お前も水瀬の名を継ぐことになる存在だ」
「…それよ」
「ん?」
「私は、水瀬伊織よ。だから水瀬の名を継いで、お兄様達の様に、お父様の様に、水瀬が発展する事を誇りに思って、生きていく…それだけかしら」
「…」
「それだけで良いのかしら。私は、私にしかできない事がある…そう思うのよ」
「それは、一体なんだ」
「…まだ、分からない」
「…まだ、か。成程」
「…私は、お父様やお兄様の力を借りずに、自分の力でやれるところまでやってみたいの。私が、私であるために、水瀬グループの令嬢じゃなくて、水瀬伊織としてどこまでやれるのか」
「…そうか」
伊織の目は、強い光を湛えていた。
いつか見た目だ。
そう、若い頃の親父の目。
水瀬グループ…あの頃は、小さな町工場だった親父の会社で見た、あの目だ。
「…好きにすれば良い。私はそれを、見ているだけだ」
「…ねえ、お父様」
「…何だ」
「私が、アイドルを止めてたら、どうしたの」
伊織の疑問に、私は伊織の目を見つめたまま答えた。
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