1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:46:47.58 ID:5pdovTaho
春香が死んでから、もうすぐ1日が経つ。
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2014/05/08(木) 01:47:27.53 ID:5pdovTaho
不思議なことに、私は春香が死ぬということを、どこかで理解していた。
2日前のあの相談から、このままでは春香が死んでしまうという認識はできていた。
ただ、動けなかった。だから、春香は死んだ。
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2014/05/08(木) 01:48:18.40 ID:5pdovTaho
「っ……は、ぎわらさん」
「ごめんね、驚かせちゃったかな」
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2014/05/08(木) 01:49:23.55 ID:5pdovTaho
「そう……」
「さっき、律子さんからメールが来たんだけど……千早ちゃんは見てない?」
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2014/05/08(木) 01:50:27.37 ID:5pdovTaho
「明日の、夜。落合の小さな会場で、芸能人は呼ばないって」
「家族葬なの?」
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2014/05/08(木) 01:51:31.47 ID:5pdovTaho
「萩原さんは、強いわよね」
何を言っているんだろう、という瞳で見つめられる。
さっきまで浮かべていた薄い微笑みは、やっぱり無理をしていたもの?
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2014/05/08(木) 01:53:05.67 ID:5pdovTaho
「うん。だって、私はまだ『こうだったらいいな』って、思っちゃってるから。
春香ちゃんが、ひょっこり給湯室から顔を出して、照れ笑いをするって」
「……」
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2014/05/08(木) 01:53:39.19 ID:5pdovTaho
「ふたつ、お願いできる?」
「はぁーい。ちょっと待っててね」
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2014/05/08(木) 01:54:49.49 ID:5pdovTaho
無音。雪が積もって、溶ける少し前のような、空気だけが伝わる室内。
萩原さんがテーブルにコーヒーカップを置いてくれる。
「もう、お砂糖は入れてあるからね」
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2014/05/08(木) 01:55:54.53 ID:5pdovTaho
私はコーヒーを飲むとき、必ずお砂糖ふたつを入れるからね――って。
あの時の春香の言葉が、そのまま脳内にリフレインして、止まらなくなる感じ。
反響していた言葉は、やがて春香というひとつの存在に変わっていく。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:56:53.63 ID:5pdovTaho
「ごめんなさい、大丈夫」
「千早ちゃん、コーヒー飲めなかったっけ」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:57:19.23 ID:5pdovTaho
「春香ちゃんの?」
「ええ。春香が亡くなる2日前、私……相談を受けたのよ」
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:57:49.95 ID:5pdovTaho
あいまいな言葉でなんとなく濁してしまう。
「春香ちゃん、なんて言ってたの?」
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:58:25.81 ID:5pdovTaho
「つらい?」
「……春香、少し前からボーカルレッスンの先生を変えたの」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 01:59:25.69 ID:5pdovTaho
春香がなぜ先生を変えたのかは分からない。
知らないトレーナーだったし、彼女の弱点だった音程を克服する何かを持っていたのかもしれない。
「その先生と、うまく合わなかったみたいで」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:00:10.35 ID:5pdovTaho
春香をそこまで追い込んだ、そのトレーナーを私は恨んだ。
彼女の元気で優しいという取り柄を、ここまで奪ってしまう人がいるものだろうか。
「でも、春香が一番悩んでいたのは、歌のこと」
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:00:37.16 ID:5pdovTaho
「……答えがでないと、私は死んじゃうかもしれないって」
「そんなこと……」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:01:26.43 ID:5pdovTaho
萩原さんは何も喋らない。徐々に淋しげな表情になって、
「分からないよ……そんなの、春香ちゃんにしか」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:01:54.95 ID:5pdovTaho
春香は笑いながら、いっそのこと死んじゃおうかな、と言った。
私は無我夢中になって、春香の頬を引っ叩いて、抱きしめた。
彼女をそこまで追い詰めていた呪縛を消してあげたかった。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:02:28.71 ID:5pdovTaho
「……応えてあげたかった。春香に」
「春香ちゃん、自分を追い込みすぎたのかな」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/05/08(木) 02:02:57.08 ID:5pdovTaho
歌いたい、演技をしたい、踊りたい。
私達みたいなアイドルはこの中のひとつは絶対に胸に秘めている。
春香の『歌いたい』が、春香自身にも見えなくなっていった。
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