22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/05/29(木) 20:02:15.35 ID:jPxrNCQ30
「僕は吸血鬼のなり損ないだ。詳しくはブラム・ストーカーを読んでくれ。僕のことを気持ち悪いと、蔑んでくれても構わない。だが、今だけは信じて受け入れてくれないか」
「…………」
果たして鷺沢は、僕の二の句を待っているようだった。
逃げ出してくれなかっただけでも感謝したいくらいだ。
その上協力を求めようとしている僕は、烏滸がましいだろうか。
「――荒木を、助けるために」
「……はい!」
荒木の名を出したことが効果的だったのか、声は小さくとも、鷺沢は力強く首肯を返してくれた。
「あの文字の群れは背紙魚。うしろじみと読む、紙魚の怪異だ。主に長い間読まれていない本……そのほとんどが古書に取り憑く」
「怪異……」
紙魚は英語でシルバーフィッシュだとかブックワームと呼ばれる原始的な昆虫だ。
主に衣類や紙を食うことから、文字食い虫とも呼ばれる。
「紙背を読む、という言葉があるだろう? 背紙魚は紙背の更に裏を読む怪異だ。背紙魚は読まれたいと思う本自体の無念、想いを形にする。例え物言わない本だろうが、長年愛されたり感情を与えられたものには命に近いものが宿る。それを利用し文字に命を与え、人間に取り憑き『物語を再現する』んだ」
「では、今の比奈さんは……」
「ああ、身体を物語に乗っ取られている。今は言ってしまえばダウンロード中だ、直に活動し始めるだろう。だがあの本の内容によってはまずいことになる……過去の事例では、外国で街一つ丸ごと消した事もあるくらい危険な可能性を秘めている」
「…………!」
鷺沢の表情が青ざめる。
それ故に、背紙魚には『街喰い』の異名までついている。
それこそ不条理や暴力、いわゆる世界系の小説ならば手に負えない場合もある。
物語は創作であるがゆえに、何でもありだからだ。
そして背紙魚の一番恐ろしいところは、取り憑いて間もない頃こそただの模倣に過ぎないが、最終的には『それがどんな物語であろうと忠実に再現する』ところにある。
もしあの本が世界滅亡を題材としたようなストーリーならば、無事で済む可能性は限りなく低い。
だが背紙魚が取り憑くのは大抵が古本や古書なので、そこまで突拍子もない設定の物語が飛び出す可能性は低いだろう。
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