過去ログ - 姉「でも、自分がいる場所を失ってしまうこともあるかもしれない」
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139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:48:10.74 ID:VKI0UZizo

「もういいよ」と俺は言った。吐いた息は震えて、肩から力が抜けていった。
俺はそのままドアに凭れるように、床へ座り込んだ。
「もうそんなことはどうでもいいよ。謝られたって、失くなった時間が
戻ってくるわけでもないし、姉ちゃんの腕の傷が消えるわけでもない。
以下略



140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:49:02.42 ID:VKI0UZizo

「ごめんね」と母さんは泣きながら何度も言った。まるで何かにとり憑かれたみたいに。
その声は、言葉からほんとうに罪の意識が漏れだしているみたいに耳に響いた。

「泣くなよ、男だろ」と父さんは言った。
以下略



141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:50:12.09 ID:VKI0UZizo


その日の夕飯はいつもよりもちょっとおかずが少なくて
味付けがしょっぱかったような気がするけど、食卓を囲う空気はあたたかく、やわらかかった。

以下略



142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:52:31.96 ID:VKI0UZizo

「音楽ならだいじょうぶかも」と俺は言う。

「照美からCDを借りてみるといい。音楽はいいものだ」

以下略



143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:53:35.01 ID:VKI0UZizo


その日はなんだかとても疲れていたから、いつもより早くふとんに入った。
微睡みがやって来るのも早かった。俺は抵抗せずに微睡みに身を任せる。
重力に従う身体の重みを感じていると、意識は遠のいていった。
以下略



144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:54:44.65 ID:VKI0UZizo

つぎに俺は江良さんのところへ行った。江良さんとはもう一ヶ月ほどまともに会話していなかった。
でも今回だけは勇気を振り絞って話しかけた。

「あ、あの、江良さん?」と俺は言った。
以下略



145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:55:59.64 ID:VKI0UZizo

「家族がさ、むかしみたいな仲良しに戻れそうなんだ。
きのう、母さんと仲直りしてさ、それで、そのことを江良さんには伝えておこうと思って。
江良さんは俺の話を聞いてアドバイスしてくれたし、他にもいろんなところで助けてもらったから」

以下略



146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 21:58:09.54 ID:VKI0UZizo

「江良さん」と俺は言う。

江良さんは言う。「ろんちゃん、アダルトチルドレンって知ってる? 
わたしね、いろいろ調べたんだよ。ろんちゃんのこと心配だったからね。
以下略



147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:00:29.97 ID:VKI0UZizo

「お姉ちゃん、一度ろんちゃんを殴るのをやめたでしょ。でもお姉ちゃんは、
ろんちゃんを殴らないことには不安でどうしようもなかったんだと思うよ。
ものすごく歪んだかたちで、お姉ちゃんはろんちゃんに依存してたんだと思う。

以下略



148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:02:11.19 ID:VKI0UZizo


学校からまっすぐ家に戻った俺は、母さんといっしょに姉ちゃんの部屋の掃除をした。
倒れた家具を起こし、散らばった何かの残骸を拾い集め、掃除機をかけ、埃をかぶったピアノを拭く。
家具には生々しい傷跡がいくつも残っていたが、そのまま置いておくことにした。
以下略



149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:03:43.41 ID:VKI0UZizo

病院へ着いた俺たちはロビーに置かれた硬いソファーに腰掛けた。
しばらく待っていると、肩から大きな鞄を提げた姉ちゃんが、白衣を着た女性に連れられてやって来る。
俺が姉ちゃんの近くまで歩み寄ると、袖をきゅっと握られた。

以下略



150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:05:34.25 ID:VKI0UZizo

「姉ちゃん」俺は姉ちゃんの服の袖を握った。

「怖い。すごく、怖い」と姉ちゃんは言った。

以下略



151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:06:06.21 ID:VKI0UZizo

母さんは続けた。「今までつらい思いばかりさせてごめんね……お母さん、
てみちゃんにいっぱい酷いことをしちゃったの。親として最低のことをしたの……
でももう一度わたしのことをお母さんって呼んでほしい。
自分勝手だけど、てみちゃんに許してもらいたいの……ほんとうにごめんなさい」
以下略



152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:08:03.24 ID:VKI0UZizo


その日の夕食はめずらしく外食だった。姉ちゃんの退院を祝って、
姉ちゃんの好きなものを食べに行こうということになったのだが、
当の本人は母さんの手料理が食べたいようだった。
以下略



153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:09:10.61 ID:VKI0UZizo

でも夕食を終えて家に戻る頃になると、みんな落ち着いていた。というよりは疲れていた。
順番に風呂に入り、リビングに集まって、一一時ごろまで途切れがちな会話を交わした。
話し合わなければならないことにはひとまず触れず、どうでもいいことばかりを話した。

以下略



154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:10:17.78 ID:VKI0UZizo

「ありがと」姉ちゃんは目を細めて笑った。「ねえ、ろんちゃん。今日、ろんちゃんの部屋で寝ていい?」

「いいよ」と俺は言う。あの部屋の有り様を見て、自分の部屋で寝てくれとはさすがに言えなかった。
べつに姉ちゃんが俺の部屋で寝たとしても問題はない。
以下略



155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/18(水) 22:11:08.67 ID:VKI0UZizo

おしまい


156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/06/18(水) 22:19:10.91 ID:CBC2lswHO

近年稀に見る良策だった


157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/06/18(水) 22:52:07.80 ID:ILchjukJo
途中で心の汗がでてきた、乙


158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/06/19(木) 23:40:23.08 ID:1JAFPuiRO
乙、もうちょっと見たかったよ


159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/06/20(金) 01:02:27.35 ID:EmB4YZkVo
乙、こういう文体なかなか出てこないから嬉しい
というか過去作ある方?



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