15: ◆dINyckyVoNyT
2014/06/21(土) 03:03:39.34 ID:jcLv2wtt0
「男ってキスした事ある?」
「はぁ?」
急な質問に加え、甘ったるいプリンのせいでむせそうになるが、何馬鹿な質問してるの?とでも言わんばかりに義姉の方をみる。
やけにニヤニヤしてる顔がムカつく。
「え?あるの?」
「あっちゃ悪いかよ」
「意外だなぁ」
「これでもね、人並みには恋愛したことあるんだよ」
そんな人並みの恋愛も、今ではまったくしてない状態だけど。
「ふーん……それってどんなだったか覚えてる?」
どんなだったか。そんな事聞いてどうするんだ、と思ったが馬鹿真面目に過去の事を思い出す。
柔らかくて、ドキドキして、自分が本当にそこに立っているのかよく分からない曖昧な状態だった事はなんとなく、記憶の片隅にある。
「もう忘れたよ、そんなの」
「えー、そういうもんなの?」
「そういうもんだよ……ってかなんだよ急に!変態!」
「なーんだ、記憶にあんまし残らないもんなんだ。いつまでも最初の経験って覚えておきたいものだと思うけど」
俺の言葉を無視して自分のわけの分からない考え方を語り出す。
別に覚えていても忘れてても、何も意味のないものだと思うし、いつまでも覚えてるなんてそんな事できるわけがない。
忘れていく。
自分がどのように生きていたのか、自分がどのように誰かに接してきたか、なんてものは全部日常の記憶で薄まって、いずれ消えてしまう。
体中の細胞がいつの間にか過去の自分の物とは違う物になっているように、消えてしまう。
確かに自分はそこにあるのかもしれないけど、きっと消えてしまっている。
「最初の経験なんてそのうち忘れるよ」
「じゃあずっと覚えていられたら私の勝ちだね」
口に圧迫感……目と鼻の先よりもっと近くに、義姉の顔がある。
口の中の甘さが、溶けていく。暖かくて、柔らかい。
驚くと息をするのを忘れると言うが、口が塞がった事によってひたすら鼻で息を吸う事しかできなくて、肺が空気ではち切れそうになる。
義姉は静かに目をつむって、ただじっと唇を重ねている。
頭が真っ白になる。苦しさが原因か、こんなに唐突に手の届かないと思っていた義姉が自分のすぐそばにいるからか。
「っは…」
ぐるぐると行き場をなくした感情と一緒に、空気が口から溢れ出る……いや、義姉が口を離したからか。
「うわ、結構柔らかい!!しかも無茶苦茶甘い!」
「は、は……」
少し離れた義姉がそんな感想を口にしているが、俺にそんな余裕はない。
今度は吸いすぎた空気を吐く事しかできない……こんな数秒の事で、今まで生きてきてずっとしてきていた呼吸の仕方を忘れるなんて……。
「ふふ、こんな事、忘れるなんてもったいないぞ」
こつん、と額を指先でつつかれる。いや、今回ばかりは、そう簡単に忘れる事が出来なさそうだ。
「忘れた頃には、思い出させてやるから」
今まで見せた事もないような、眩しい笑顔。日常で見てきた、義姉の笑顔が全部塗り変わるほどの笑顔。
忘れていた呼吸が元のように出来るようになると同時に、バクバクと体中に血液が流れ出したのを感じた。
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