924: ◆7SHIicilOU[saga]
2014/07/08(火) 21:50:09.05 ID:DBFZiQNeo
――Epilogue
初めて来たバー。そのカウンターに腰掛け、
時計を気にしながらグラスに注がれた琥珀色の液体をちびちびとやる。
あまり得意ではない洋酒の苦味に少し顔を顰める。
どうにも俺の舌は身体に比べ成長が遅い。
カウンターにグラスを置けばロックアイスと硝子の触れる音。
BGMにはどこかで聞いた事のある洋楽が僅かに聞こえる。
「久しぶりだな……」
待ち人の、まさか来るとは思ってなかった声に。
少々驚きながらも表情には出さないように振り返る。
「まさか来ていただけるとは思ってませんでしたよ」
「ふん、気まぐれだ。……いつぞやあった時に比べずいぶんと顔に色がついたな」
「お蔭様で」
来るとは思っていなかった待ち人。
ぴっちりとしたスーツを着込み、相変わらず年齢を感じさせないその人は
少しの間こちらをじっと見つめた後、当たり前のように俺の隣に座る。
真隣に来るとはさらに思っていなかった俺は、流石に動揺する。
「高木が戻ったそうだな」
「えぇ、つい最近」
「……ふん、貴様も甘いな。社長の椅子に正式についたと同時に
あの無能を即切ってしまえばよかったものを」
待ち人。――黒井社長はマスターが置いたグラスを
早々に傾けながらいつも通りの少し棘のある口調で言った。
それは俺に対する苛立ちだけでなく、予想通りという安堵もあった気がした。
「正直言ってですね。社長は人を見る目はあります、
プロデューサー時代に培った経験もあります。
ただ、あまり事務仕事が得意な人ではありませんでした」
「あん? なんの話だ」
「……ただ、戻ってきたとき。社長は以前よりずっと仕事ができる人になってましたよ。
そして社長が言ってました、ここで貴方に叱咤された、と」
「あの馬鹿……」
今度は掛け値なしに苛立ち100%の声色だった。
俺はただ苦笑しておくにとどめる。
「不快だったのだ……」
「はい?」
グラスを飲み干し、あっという間に二杯目も半分にした辺りで、
ポツリと黒井社長はそう口を開いた。
「あいつに私がなにを言ったか、聞いたか?」
「一応、ざっくばらんには」
「そうか……、私は貴様が新人のへっぽこプロデューサーだった頃から知っている」
「はい。色々お世話になりましたね。……ってそれは別に最近もそうですけど」
「ふん、貴様に気遣われるとはな」
言って、また残りの半分を一気に飲み干す。
黒井社長と飲むのはコレが初めてではない、
だからこんなペースで飲む人ではないと知っている。
「だが、まぁそうだ。貴様がどう思ってるかは知ったことではないが、
私にとっても貴様は……、まぁ、息子のような物だ。
貴様を961に勧誘したことも、一度ならずあった物だ、
だから余計に腹が立った、高木の奴はなにをしているのだ。とな」
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