過去ログ - エリカ「あなたが勝つって、信じていますから」
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145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/24(木) 23:58:21.41 ID:eB1pESsT0
「私がポケモンバトルをこなせる状態ではないと、そう言いたいのですか」

 今エリカが言葉の刺を隠せないことが、なによりの証拠だった。

「あなたのポケモンに対する接し方に迷いがあった。あなたはサカキとの戦いで、深い傷を負ってしまったのではないのか?」

 レッドのその言葉で、エリカの目が見開かれる。心優しい少年と思っていた相手から信じられないような言葉を聞いて、エリカは感情のまま放つ。

「あなたにっ……あなたに何がわかるんですか! ポケモンとの絆も、努力も研鑽も! 負けてしまったら何の意味もない! あのゲームコーナーでは、多くのポケモン達が金儲けの道具にされ、各地に出荷されてしまった……。もう救うことができない! サカキも取り逃がして、私はなにも、することができなかった……!」

 レッドは、エリカの言葉を真正面から受け止める。

「サカキを倒さなければならなかった。あんなポケモンを金儲けの道具に使う人間を倒し、ポケモンとの信頼を築き、絆を得ることが正しい道だと、示さなければならなかった。私達ポケモントレーナーが進む道が正しいのだと……、でも私はできなかった。ポケモン達が蹂躙されるのを、見ているだけしか、できなかったんです……」

 エリカがどれほどの絶望を味わったのか。正しいと信じて進んできた道が、圧倒的な力によって破壊された。結局レッドもエリカもサカキの気まぐれによって平穏無事でいることを理解している。

 理解しながら、レッドは前を向いていた。

「勝てないならば、勝てるようになればいい」

 エリカはレッドの言葉に顔を背けて自嘲した。

「……勝ち目があると、本当にあなたは思っているのですか」

 レッドはあの日変わった。そしてあの日から、

「結果はこの世界の誰にもわかりはしない。大事なのは」

 レッドの気持ちは、変わっていない。

「勝ちたいという、意思があるかどうか」

(……!)

 エリカは目を見開く。その言葉は、かつてエリカがレッドを導いたときと同じ道。

「自分のポケモン達が傷つくのは、誰だって嫌だ。それでもバトルの道を選んだのは、ポケモンと共に得られる光があるからだ。何にも変えがたい絆の力があるからだ!」

 レッドはモンスターボールを放り、フシギソウを出現させる。フシギソウはレッドの意思を汲み取り、咆哮する。

「俺はあなたから学んだ。ポケモンとトレーナー二つの心を一つにすることを。仲間の力を! 正義の心を! 不屈の闘志を! あなたが道に迷い戸惑っているというのなら!」

 レッドは帽子をかぶり直し、フシギソウと共に熱い闘志を魅せつける。

「俺があなたを導く! 今まで旅をし、仲間と培ってきた全ての想いをのせて! 一人のポケモントレーナーとして!!」

 エリカはゆっくり顔を上げ、月を見た。クサイハナがエリカの裾を引く。

 このクサイハナは特別だ。エリカが幼少の頃にはじめて手に入れたポケモンナゾノクサ。このポケモンだけは家で大事に育て、レベルこそ上げたものの、荒事には程遠い生活をしてきた。

(それでも、あなたは……)

 クサイハナは全身で語っている。主の役に立ちたいと。エリカの中で縮み燻っているものを、今一度新しく芽吹かせたいと。

 そのために力になると。

 時計の鐘がなった。レッドとエリカの静寂の中、日を跨いだ。

「……!」

 レッドはプレッシャーを感じた。揺らぐようにエリカがクサイハナを携えて、レッドに向き直る。

 しかし、その瞳には戻っている。レッドを導いた光が。

 ポケモントレーナーの意思が。

 清廉なる戦士が、レッドの前で月を背に桜色の唇を開く。

「……草ポケモンを司るタマムシジムリーダー、エリカ」

「マサラタウンのレッド!」

 バトル開始。


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