1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 23:04:50.61 ID:KqjMiQVT0
フロントガラス越しに広がる空は、どんよりと濁っている。
日も沈みかけてきている。本来この時間帯なら、綺麗な夕焼け空でも広がっているんじゃないだろうか。規則的で単調なリズムを刻むワイパーをぼーっと眺めながら、そんな事を思った。
雨が止む様子はどこまでも感じられない。見る者を憂鬱にさせる鉛色の雲が、高層ビルの列挙する狭苦しい都会の空を悠々と流れていく。
これは一晩中雨になりそうだ。明日まで引きずらなければいいが。
雨は嫌いだった。何より服が濡れる。交通ダイヤも乱れる。気分もどこか落ち込んでいくし、それに、言い知れない不安が胸の中に広がっていくから。
しとしとと降り続く雨の音が妙に耳に触った。雨音はショパンの調べだなんて謳った人が居るらしいが、そんな優美さは一抹も感じられない。決して雨脚が強い訳ではないけど、車内が嘘みたいに静かだったから、それも関係しているだろ
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2014/07/13(日) 23:05:56.87 ID:KqjMiQVT0
程なくして信号に捕まる。連なる車のテールランプが雨に乱反射して、どこか幻想的な雰囲気を醸していた。
意味も無くざわつく心中を抑え込もうとしたのか、俺の手は無意識に懐に伸び、手のひら大の箱を取り出す。
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2014/07/13(日) 23:07:03.30 ID:KqjMiQVT0
「悪いな、歌鈴」
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2014/07/13(日) 23:08:11.09 ID:KqjMiQVT0
歌鈴もそうなのかもしれない。長く仕事を共だって来た俺とはいえ、年若い女性が男の前でこんなにも無防備な寝姿を曝け出すだろうか。歌鈴は俺だから安心して睡眠に身を没しているのではないだろうか。
信頼、してくれているんだろうか?
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2014/07/13(日) 23:09:06.71 ID:KqjMiQVT0
「ふぇ…!?」
さほどでもないけれど、慣性が身体に圧し掛かった。軽々としたもんだが、全体重を無防備に座席にあずけていた歌鈴には効果が大きかったみたいだ。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:10:10.27 ID:KqjMiQVT0
「目が覚めちゃいました…」
「なら起きていればいい」
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2014/07/13(日) 23:11:13.93 ID:KqjMiQVT0
「運転中に横を向くとあぶないですよ?」
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2014/07/13(日) 23:12:16.76 ID:KqjMiQVT0
初めての給料で買った腕時計。決していいものではない。だけど、歌鈴に関わったお金で買った、俺にとってはとても意味のある物なんだ。
でも、そんな安物の腕時計に視線を投げかけたって、俺の欲している答えなんかある訳がないのに。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:13:39.37 ID:KqjMiQVT0
「もうすぐ寮に着くから」
「…」
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:14:57.77 ID:KqjMiQVT0
「だって、藍子ちゃんとお話ししている時は… Pさんずーっと笑顔ですもん」
「…歌鈴とだってそうだろ」
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:16:15.25 ID:KqjMiQVT0
「Pさんは優しい人だってしってます」
「…ありがとう」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:17:03.67 ID:KqjMiQVT0
「それは絶対に無い…!」
頭の中が急速に熱を帯びていくのがわかった。嫌いではない、本当だ。嫌いだったら何年も一緒に仕事もしないし、雨だからって態々寮まで送ってやる事も無い。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:17:51.63 ID:KqjMiQVT0
「だったら、どうしてですか…?」
「それは………!」
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:19:01.33 ID:KqjMiQVT0
____
「…わからないんだよ」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:20:00.12 ID:KqjMiQVT0
肯定を込めて頷きながら、俺は心の内を語っていく。
それはなんだか解きほぐされていくような感覚で、それと同時になんだか気恥ずかしい気持ちもあって…
やっぱりそれがどうしてなのかわからないけど、心中を支配していた熱が次第に顔に朱を刺していくのを確かに感じていた。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:21:14.53 ID:KqjMiQVT0
「…Pさんっ!」
「なんだ…?」
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:22:17.72 ID:KqjMiQVT0
「不器用、ですよ?」
「それに対しては疑問符を浮かべざるを得ない意見だ」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:23:22.53 ID:KqjMiQVT0
「別に、なんでもないです…」
「なに拗ねてるんだよ?」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:24:29.59 ID:KqjMiQVT0
「じゃあ、また明日です!」
「ああ、また明日な」
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:25:22.60 ID:KqjMiQVT0
何のぎ無しに空を見上げると、今夜中には上がらないと思っていた雨は止み、雲の隙間から爛々と輝く星の瞬きが顔を出す。
はっきりとは見えないけど、そこにあるのは確かな事で、まるで俺に見つけて欲しいみたいに微弱ながらも光を発していた。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/13(日) 23:26:55.88 ID:KqjMiQVT0
女心と秋の空、まあ、まだ夏先であるがそんな心情だ。どうして歌鈴が急に元気になったのかは俺には想像の余地も無い。
………それに、俺の気分も憑き物が落ちたみたいにすっきりとしていた。
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