16: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/08/07(木) 23:02:55.25 ID:iJvGxYcs0
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かしゃん、と音がした。
「阿良々木暦は吸血鬼だ」
「…………えっ?」
「もう一度言うよ。川島瑞樹さん、貴女はここにいてはいけない人間だ」
阿良々木君に彼女が出来て数ヶ月。
そろそろ私もお目付役御免かな、と思っていた矢先に彼からお茶でもしようと喫茶店に誘われ呼び出された私は、そのまま崩れかけた廃墟へと連れて行かれた。
そこで待っていたのは、机をベッドに見立てて座るアロハシャツを着た中年の男。
何の冗談よ、とどこか様子のおかしい阿良々木君に状況を問おうとするも、忍野メメと名乗ったアロハのおじさんに開口一番、そんなことを言われた。
突然の展開に開いた口も塞がらない。
一体何を、言っているのだろう。
阿良々木君が吸血鬼?
あの、太陽と十字架とにんにくが苦手で、人間の血液を食糧とする化物の吸血鬼?
……そんなバカな。いくら冗談だとしても笑えるものじゃない。
「ごめんね、あまりにも突然のことで混乱しているとは思うけれど、時間がないんだ。レディに対して失礼だけど、貴女の経歴は調べさせて貰ったよ。川島瑞樹、二十三歳。十三歳の時分よりこの街に移住。それ以前の経歴は一切不明。まるで十年前、ここに突然出現したかのように」
「……それは、そうだけれど」
でも、記憶喪失だと思っていた。
思い出せないけれど、今はそれなりに幸せだし、それでいいって、
「家族構成は? 産まれた街は? 通っていた小学校の名前は?」
「…………」
思い出せない。
いや、思い出せないどころの話じゃない。
朧げにすら思い起こす事が出来ないんだ。
まるで、高校生以前の記憶がすっぽり抜け落ちているかのように。
「忘れている、ではないんだよ。存在しないんだ。『この世界の』川島瑞樹さんには、過去というものがない」
言われてみればそうだ。例え記憶を一切なくしたとしても、断片的に何一つ思い出せないなんてことはまずあり得ない。
でなければ、高校生の時点での私はどうやって形成されたのかの説明もつかない。
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