過去ログ - 叢雲「落ち着きが無いわね。大丈夫?」グラハム「私は我慢弱い」
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207: ◆WHzNz9zb1A[sage]
2015/05/13(水) 06:20:43.28 ID:2q1neMZAO
――人類がエスニシズムとレイシズムの狭間をようやく越えた先、目の当たりにしたものは

  ナショナリズムという、途方も無い奈落の入り口だった――



【世界紛争根絶デー】

 深海棲艦が制海権を掌握し、世界が分かたれる前。
 今日この日の時点を以て、人種・民族・宗教の間にくすぶっていた紛争の火種は、互いの歩み寄りと文化の芽吹きを経て鎮火したと判断された。
 正式に、全世界から紛争が消滅した、と認められたのだ。

 当時国連代表のリカルド・マーセナス事務総長は、この日の演説で

「今日この日を紛争根絶の記念日として定められたことは、人類にとって音楽の発明に等しい偉業である」

と、壇上で諸手を挙げてその日を祝福した。

 誰もが高らかに声を上げ歌った。
 肩を組み、笑い合う人々の色はまばらで。
 抱きしめ合い、飛び回って踊る者達は信ずる神を違えていた。

 もう争うことはない。
 誰もが、そう思った。
 ここに彼等は、お互いの差異を認めて手を繋ぐことが出来たのだ。
 もう、争う理由など無いと。
 傷つけ合い、罵り合う理由が無いと。
 誰もが、そう思った。


 彼らは知らなかった。
 もしくは、知っていて目を背けていた。
 なかには、もうその対策に乗り出す者までいた。

 火種とは、何かを燃やすためにあるものだ。
 火種が消えたということは、燃やすべきものが消えて、凍えてしまうのだ。
 燃やさねばならない何かが際限なく溜まり、異臭を放つのだ。

 だから、火種は無くてはならない。
 燃やすべきものを燃やして、絶えず温もりを得る為に。
 燃やさねばならない何かを、絶えず燃やし尽くす為に。


 やがて、世界は火種を求め始めた。
 自らを焼かぬよう、強固に足場を固め、壁を作り、風の通り道を作って。

 紛争根絶デーが定められて、ちょうど一年が過ぎた頃。
 世界は既に、国境線という見えない境界に不可視の壁を形成しつつあった。


――――


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