633:ベルトコンベア ◆EwTy/47GRIPz[saga]
2016/03/14(月) 22:42:05.70 ID:V2vZHHp70
「…………ます。こちらは……――」
不意にそんな声が聞こえた気がした。
それをきっかけに、徐々に意識が覚醒してくるのがわかった。
「……あぁ、寝ちゃったのか……」
起こされたのは、どうやらアナウンスの声だったようだ。
男は、ゆっくりと体を起こして、周りを見渡す。
暗い。
どれだけ眠っていたのだろうか。
目の前には、誰も乗っていないが、扉を開けて電車が止まっていた。
「……なんか、寒いな……」
冷えた体を擦りながら、駅のホームの時計に目をやった。
時計の短針は11時を指している。
どうやら、6時間近く寝てしまったようだ。
男は、小さくため息をつく。
駅に着いた時の喧騒とは打って変わって、今は誰一人居ない。とても静かだ。
「…………って、こんなことしてる場合じゃ――!」
そこで、昼間の出来事を思い出す。
再び、慌てて周りを見渡す。今度は、人影……もしくは何か変わったことはないかと注意しながら。
しかし、男の心配は杞憂に終わる。
……もう、誰も追ってきていないのだろうか?
先輩は? 自分の居場所が分かるわけではなかったのか?
それとも、誰も男がここに居ることを予想できなかったということなのか。
なにはともあれ、何もないことに安堵して、胸をなで下ろす。
「……でも、夢じゃないんだよな……」
すこし寒いが、夜風で少し頭が冷やせたようだ。
今日一日は、常に頭を使い、常に動き回っていたようなものだったから、こんなに冷静に考える時間がなかった。
思えば今日は、先輩の家で監禁されていたことから始まった。
次は、姉に助けられたかと思えば、再び監禁されかける。
なんとか逃げ出した後は……そうだ、委員長に会ったんだった。
最初に委員長を見たときは、とても安心したのを覚えている。委員長なら安全だと。
だけど、そんな期待も裏切られて…………友に……助けられた。
「……そこから、もう友の思惑だったのかな……」
逃げて。
幼馴染からも逃げて。
後輩からも逃げて……。
お嬢様とその使用人みたいな人たちからも逃げて。
妹に……会って。
そのあと、姉も来たんだったかな……。
それでも、何とか抜け出して。
先生と鉢合わせて……。
「……それも、友が助けてくれたんだよな……」
そのあと女さんに会った時は、さすがにもう無理かと思ったけど……。
ヤンキーが来てくれて……。
そうだ、ヤンキーは大丈夫だろうか……? まだ、幼女が近くに……。
「きっと、大丈夫だよな……」
自分に言い聞かせるように、ぼそりと呟く。今の男には、そう願うしかなかった。
ヤンキーたちと会ったその場から移動する最中、先輩に会って……。
――笑った。
……なんで、あの時先輩は……。――いや、いくら考えても、きっとその理由はわからないだろう。
……そして、友のところにたどり着き……――。
……そして、裏切られた。
唯一、友だけは信用できると思っていたのに。
ふと、男の頬に涙が流れた。
「もう……、俺は何を信じればいいんだ……」
兄妹も、クラスメイトも、教師も、幼馴染も、親友も……――。
「……まもなくドアが閉まります。お乗りのお客様は――」
そんなアナウンスが流れた。
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