過去ログ - 男「ヤンデレってなんだ?」
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634:ベルトコンベア ◆EwTy/47GRIPz[saga]
2016/03/14(月) 23:28:13.54 ID:V2vZHHp70

 そこで、男もハッと我に返る。
 そして大きく深呼吸すると、ゆっくりと立ち上がった。
 どこか寂し気に光る電光掲示板を見れば、この電車が終電だということがわかる。
 気付かずに寝過ごしてしまっていたら……。
 ふと、そんなことが頭をよぎる。
 しかし、いま男は起きているのだからと頭を振って、その考えを振り払った。
 一歩電車の中に足を踏み入れると、外よりは少し暖かい。
 最初から、電車の中で考えればよかったと思い、自嘲の笑いを浮かべる。
 何故だかイスに座る気分にはなれなくて、吊革をつかみながら外を眺めた。
 暗い、窓の外の景色。
 そして、そんな窓に反射してうつる自分の姿を、ただぼんやりと見ていた。
 あまり自分の姿というものを鏡で見ることも無いが、ただそこに居た自分は、なんだか少し小さく見えた。
 再び自嘲気味に笑うと、今度は景色に目をやる。


「………………えっ……?」


 そして、見てしまった。
 暗い景色の中、ポツンとたたずむ人影を。


「………………っ!」

 ドクンと、大きく心臓が動く。
 気付けば呼吸も早くなっていた。
 いや、まだあの人影が誰かとは限らない。
 何度もそう思い込もうと試みるが、うまくいかない。
 暗くてよくわからないが、こちらのほうをジッと見ている。
 まだかっ! まだドアは閉まらないのかっ!
 男にできるのは、ただひたすらに祈ることだけ。
 尋常じゃないほどの冷や汗を右手で拭う。
 再び外に視線を向けると、人影はいなくなっていた。
 先ほどより激しく心臓が動く。
 もし、いまこの電車に駆け込んで来たら……。 
 いやしかし、あの場所からここまでくるのには数分はかかるはず……。
 それまでには……――。

 プシュー。
 そんな空気の抜けるような音とともにドアが閉まる。
 同時に男は、膝から崩れ落ちた。
 助かった……。さっきまであの人影があった場所から、この電車まで来るのにそんなに早く来れるはずがない。
 それに、あの人影は自分とは何の関係のない人かもしれないじゃないか。
 先ほどは、肯定できなかった考えも、扉が閉まったいまはすんなりとそう思えた。
 ゆっくりと電車が走り出す。
 男も、座席につかまりながら立ち上がり、そのまま椅子に腰を下ろした。
 背中を丸め、深いため息をつく。
 さっきまで寝ていたというのに、助かったという安心感からか、また眠気が襲ってきた。
 
「……寝るか……」

 どうせ起きていたって、やることなんてない。
 そう思いながら、男はゆっくりと目を瞑った。




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