56: ◆EhtsT9zeko[saga]
2014/10/14(火) 21:29:39.87 ID:rEfyuFNso
「ゆ、ゆ、勇者の紋…!」
黒装束の男が口にした。
そう。
絵物語のなかで、世界を二つに分けたと伝えられる人の証。
―――勇者…
「ばばば馬鹿な!なぜっ…ありえない…勇者と魔王、両者の紋章を持っているなんて…!」
黒装束だけじゃない。
勇者と名乗った男も、弓の男も斧の男も、その場に座り込んでガタガタと震えている。
だけど、お姉さんはそんな男達に冷たく笑って言った。
「怖いか?恐ろしいだろ…それが絶対的強者に出会った恐怖ってもんだ…これまであんたらが食い物にしてきた連中が感じただろう絶望だよ」
「くっ…クソがぁぁぁ!!!」
勇者の男がそう怒鳴ってあの火球をお姉さんに放った。でもお姉さんは、まるでろうそくの火を吹き消すみたいにふっと息を吐いた。
何が起こったのかわからない、風なんて吹いてないはずなのに、火球がまるで火の粉のように炎を散らせて消えた。
「ひっ…ひぃぃ!」
弓の男がそう悲鳴を上げる。男たちはまるで雷のなる日の子犬みたいに小さくなってひとまとまり固まって震えている。
「この仕打ちの報いは、体で払ってもらうとしよう」
お姉さんは、冷たい笑顔でそう言うと、なんにもない空間を指でピンっと弾いた。
「うぐぅっ!」
その瞬間、黒装束の男のうめき声が聞こえた。見ると、黒装束の男が口から泡を吹いて伸びてしまっている。
「や、や、やめてくれ!もうしない、二度としないから!」
「こ、こ、殺さないでぇぇ!」
斧の男がそう喚く。
でもお姉さんは、ニヤニヤと、まるで楽しそうじゃない笑顔で笑いながら、冷たく言い捨てた。
「安心しろよ、すぐには殺さない。腕をもいで、脚ももいで…そうだな、死なないように体を開いてみるってのも苦しみそうで楽しいだろうな」
男たちの顔色が一瞬にして見たこともないくらいに真っ白になる。
それを見たお姉さんはまたピンピンピンっと指を弾いた。
男たちは、何かに殴られたみたいに体を弾けさせ、その場に倒れ込んで動かなくなってしまった。
お姉さんはふぅとため息をついた。すると、両腕から光が消えて、皮膚の色がみるみる元に戻り、背中から生えていた翼が霧に溶けるようにして消えていった。
ど、どういうことなの?お姉さんは、魔王なの…そ、それとも、本物の勇者様なの…?そ、それとも…両方、なの?そんなことって、ありえるの…?
ただただ呆然とそんなことを考えていた私に、お姉さんが振り返った。
その顔を見た瞬間、私は、ギュッと胸を締め付けられたような気がした。
お姉さんは、笑っていた。でも、言いようのないくらい、悲しい顔をしていた。
泣いていたわけではないけど、でも、乾いたように笑うお姉さんの瞳は、悲しいのと淋しい色に染まっていた。
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